保健室に運びこんだまひろが目覚め
うわぎを掛けて思い出す、去り際の彼女の背中。
「まひろって今、身長何センチ?」
「161センチよ」
自分は大きいほうで、もうすぐ170センチに届きそうなくらいで。
まひろも、そんな自分から見たら小さい女の子、って感じだった。
けど、彼女はそれよりも小さくて華奢で――――
まひろを寮の玄関まで送り届けて速攻でオバケ工場に向かい
闘っている最中の修羅場に文字通り突っ込んでいった。
不思議と恐怖感は無く、ただ、助けたいと思った。
――――――そして、怒られた。
蜜
「まず、人の話を良く聞きなさい」
良く言われます。
「夜道を女の子が一人で歩いていたら、普通でも危ないでしょう。
特に、ここまでの道は町から外れ外灯も少なく茂みがあり道路も舗装されて無い
つまり、痴漢や犯罪に巻き込まれやすい事この上ない、そんな場所をキミの様な女の子が歩いていて
万が一にもここに来る前に、痴漢にあったりしたらどうするんだ!!
もしかしたら、違うホムンクルスに出会う可能性だってあったんだぞ!!」
昔痴漢にあって、叩きのめして警察に突き出したら
あまりの痴漢の怪我の酷さに注意された事がありました。
恐るべき通信空手。
「慣れてもいないのに、闘いの場に突っ込んできて
女の子なのに顔に怪我でもしたらどうするつもりだ!!」
あ、それも良く言われました―――昔は。
もう、諦めて誰も言わなくなったけど。
「何か、言いたそうだな」
「いや何も」
心の呟きが漏れていたのかと慌てて首を横に振れば、『はああ〜〜』と大きな溜め息。
「足元をよく見ろ」
「!!!」
転がる髑髏と沢山の骨
「喰い掛けが無いだけマシだ」
人喰い共がまだ街に潜んでいると聞かされてゾッとする。
「思ったより、悪い状況だ。今度こそ、キミは手を引け!」
けれど、尚更引けなくなった。
だって、まひろが、皆が危ない。
「なら、尚更引けないよ。私はあなたがくれた『戦う力』を持っているのに」
「キミは、女の子だ」
「あなたも、女の子じゃない」
「わ、私は良いんだ!!」
「一緒だよ?だって、私より小さくて可愛い女の子が戦ってるのに
力を持っている私が戦わないなんて、オカシイじゃない」
笑って返せば、隣でまた溜め息一つ。
「私は、キミのためを思って言っているのだがな」
「ありがとう――――でも、ゴメン
どうしても、ジッとしていられないの」
そうは言っても、この状況じゃ格好つかないけど。
ぽつりと漏らすと、彼女は笑う。
流石に30分全力疾走+いきなりの実戦続き+沢山の骨
トリプルカウンターで足が今頃がくがく震えて
黙って、肩を貸してくれた彼女。
「私も手伝う、お化け退治!!」
そして、目出度く『戦士見習い』
漸く教えてもらえた斗貴子さんの名前。
寮の近くまで送ってくれて
別れる前に互いの携帯を取り出して、赤外通信を交換し合う。
「明日、また連絡する」
「うん、待ってる!おやすみなさい、斗貴子さん」
手を振って見送れば、声を聞きつけたのか扉があいてまひろと3バカが飛び出してくる。
「おねぇちゃん、おそ〜〜いっっ!!」
「かずき、遅すぎるぞ」
「一応、女なんだから自覚しろ」
「点呼は誤魔化しておいた」
「あはは、ごめんごめん」
嵐のような一日の終りは、結局いつもと変わらなかった。
翌日も、学校はいつも通りで――――いつもと違うのは、一本の連絡だけ。
「ツムラ トキコ」
「うおあぁあああ!かずきの携帯に知らない女の名前がー!!」
「きゃあああああ!岡倉のエッチー!!
かずきの叫びを聞いて、周囲の女子生徒達が『岡倉君はエッチなんだ』とひそひそ噂しあうのを必死に弁解する岡倉。
「勝手に人の携帯を見るから」
と、大浜が諭す。
「や、だって、新しいストロベリーなら紹介して欲しいじゃん!!」
常時彼女募集中の岡倉は、校内で色々と玉砕している為
既に同じ学校の女子は諦めている。
「まぁ、女の子にもてるからなぁ…かずきは」
「確かにねぇ」
4バカの中で、本人は知らないが実は一番もてるのは女のかずきだ。
私服で歩いていて、少年に間違えられた事も
まひろと歩いていて『可愛いカップルね』と言われた事も
バレンタインに私服で歩いていて、近くの女子高生からチョコを貰った事もあった。
ボーイッシュで運動神経もよければ人当たりもよい。
何より、真っ直ぐで正直者の擦れてない彼女は
『同性でも良い』とか『憬れの先輩』とか『お姉さま』とか
所謂『お友達になってください』――――実際には『お友達から始めてあわよくば』と言う申し出が多かった。
が、かずきは呆れるほど鈍く
しかも、その行動の凄さに大概の女の子は『憬れは憬れのままに』と言う教訓を胸に秘めて
遠くから見つめているだけになる。
携帯音が鳴り、かずきが皆から少し離れて話し始める。
「ちょっとだけ疲れが取れないけど、うん、大丈夫」
「うわぁ〜本当に新しい友達っぽいね」
「女の子同士の携帯の電話って、何かストロベリーっぽいな、何喋ってんだろ」
「放課後、オバケ工場で待ち合わせだってさ」
六舛の読唇術で待ち合わせを知り
まひろと連携を取り、新しいお友達を探りに行く事にした3バカ+1
「じゃ、後で寮でね」
放課後「用があるから」と物凄い速さで教室を飛び出していったかずき。
それを「後で」と手を振り見送り、3バカはまひろと落ち合う。
『うちの可愛いかずきに近づきたければ、我らを倒して行け!!』
周囲からはそんな風に見られている事を、4人は知らない。
犠牲者と思われる人たちの遺骨を集めて埋葬し、手を合わせる。
斗貴子さんに呼ばれて工場の屋上に上がり
突撃槍の名前を相談して、また、怒られる。
斗貴子さんが見つけたホムンクルス本体の培養器
ココは、アジトではなくホムンクルスの研究室だった。
そして、今解っている事―――コレを創り足した創造主は人の命を命と思っていない、研究の為なら手段を選ばない事。
斗貴子さんがそう言ったその時
「斗貴子さん!!」
跳ね飛ばされた3センチ位の塊
空から落ちてきたそれは『パミィィ』と鳴き声をあげ飛んでいったが
それでも、斗貴子さんの首に傷をつけていった。
即座に指示を受けて、上空に突撃槍を飛ばすとその布に捕まり斗貴子さんが攻撃を繰り出す。
自分の位置からでは見えなかったが、落ちてきた斗貴子さんは冷静で。
取り逃がしはしたが、それなりに成果があった。
残りのホムンクルスの数と、創造主がかずきと同じ制服だったこと。
もう、一人の犠牲者も出さずに勝ちたいと、埋葬した人たちに手を合わせていたら
後ろから呼ばれ振り向くと、いつものメンバー。
「ほんとだー!!おねぇちゃん、新しいお友達?!」
「友達?私が」
心底、不思議そうな顔の斗貴子さん
言われて見れば『戦士と戦士見習い』だし
でも、ちょっと、傷ついたかも。
「え、友達じゃなかったら…」
まひろが不思議そうな顔になる。
「「姉妹」」
がっつり肩を組んで皆にまひろに返せば
「え!!知らない、私知らないよぉ!!」
いや〜〜!!もしかして異父姉妹?!と慌てふためくまひろ。
「なんてね」
そう言った斗貴子さんの呟きはパニックになったまひろには聞こえなかったようで
「取敢えず、お茶でも」
そう言った六舛に同意して皆で歩き始める。
斗貴子さんは、付き合うつもりは無かったけれど、状況がそれを許さなかった。
まひろの髪の毛にしがみつく『ホムンクルス』
そして、それはまひろにでは無くて斗貴子さんに飛んできて
その、小さな身体を抱かかえて横っ飛び
結果、木々と岩だらけの急斜面を転がり落ちた。
―――――そして、また、怒られた。
「いいか、キミと違って私は訓練されているんだ!!
女の子のキミが同じ女の私をかばって傷だらけになってどうする!!!
運良く全身打撲ぐらいで済んだ様だが、今度かばったら敵の前にキミを倒すぞ!!!!」
「ホ、ホムンクルス、は?」
あまりの剣幕にすみません、ごめんなさいと謝りながら訊ねれば知らされる寄生された事実。
脳への侵入は避けれたものの、アンモナイトの化石の様に斗貴子さんのお腹に埋まるホムンクルス。
斗貴子さんを助ける為に、創造主を捕まえるのに許された期限は一週間
そして、飛び出してきた小蛙のホムンクルス
突撃槍で一掃して誓う――――斗貴子さんを絶対に助けるんだって。
創造主の手懸りは、同じ学校の生徒。
腕章のラインが緑だから3年生。
翌日から、斗貴子さんも学校に潜入して創造主を探す。
夜は、突撃槍を使いこなせるようになるために自主トレ。
人数が120人に絞られるから、簡単に見つけられると思っていた。
けれど、4日経っても見つからず
何より、自主トレの手応えも掴めず心の中に焦りが生まれ始めた。
そして、コツを聞こうと帰路につく斗貴子さんを追いかけて見つけたホムンクルス。
「ねぇ、怖いんでしょ?キミも美味しそうだけどさ、あの子を食べる邪魔しないなら創造主の事を全部教えてあげる」
べらべらと喋る、マッシュルームカットの痩身の男。
その言葉は胸糞悪いモノばかりで。
斗貴子さんを食べるとか、邪魔しなければ創造主を売るとか
「未熟は百も承知。だけど、今、斗貴子さんは闘わせたくない」
だから、私が闘う
創造主を一緒に探している時に、実は一つだけ良い事があった。
『あの時は、すまなかったな』
『何が?』
『いや、オバケ工場で妹さんに友達かと聞かれたとき』
『あぁ、あれ』
『私は、友達が居た事が無かったから』
つまり聞きなれない言葉だった為、聞きなおしてしまったと。
『じゃあ、これからは聞かれたら友達って答えて良い?』
どきどきしながら聞いてみたら
『そうだな、戦士と戦士見習いとは答えられないからな』
斗貴子さんは笑った。
初めて、できた女友達。
いつも、3バカかまひろが傍にいてくれたけど
だけど、こんなに一緒に走り回ったり、転げまわったりしてくれる女の子はいなかった。
あんな華奢な体で自分達を助けてくれてオバケと闘って
どれだけ、凄い訓練を乗り越えてきたのだろう
どれだけ、怖い目に合っただろう
そんな彼女が大変な目に合ってるのを助けたいと思うのは、友達なら当たり前だ。
「あっけないけど、はい、お終い」
だけど、決意ほど簡単ではなく
本当に、あっけなく倒れ臥した自分
心臓の部分が無いから、死ななかったけど
痛いし、怖いし、辛いし、ムカつくし
でも、斗貴子さんはこう云う思いたくさんしてきたのかな?
みんなに、こんな思いさせたくないな―――
やっぱりスカートは動きにくいから
今度から、制服じゃ無くてジャージにしよう
今度……
今度、って次も闘う気になってるよ私。
怖いし痛いし気持ち悪い敵だし嫌なのになぁ―――
「あれ、これ、どうやって核鉄ってやつに戻すんだろう」
なんか、あんな気持ち悪い蛙マンに自分の心臓触られてるって思ったら更にムカついてきた……
「勝手に、持っていかないでくれる?ソレ」
それは、斗貴子さんがくれた新しい命
友達からの、初めてのプレゼント
綺麗に包装されていたり
可愛いデザインだったりはしない
むしろ血だらけ、しかも心臓―――飾りは布
だけど、コレは命でそして
「あんた達から、みんなを守る為の闘う力!!」
土壇場で掴む、武装錬金の特性。
力が発動して倒れる蛙マン
創造主の事を全部話すから助けてくれと泣き叫ぶ。
約束させて、話を聞いていたけれど
――――気が付いたら、満点の星空
そして、斗貴子さんの声―――――は、やっぱり怒っていて。
初めて知った、核鉄の治癒能力の事
斗貴子さんが倒したバラのホムンクルスの事
「バラのホムンクルスに倒されたんじゃないのか?」
「蛙、の、ホムンクルス」
一体倒せた
嬉しくて、えへへと笑ってしまう。
少しは、力になれたかな?
やっぱり、無茶した事に怒られたけど
「キミは今日、少し強くなった」
そっと乗せられた濡れタオル
気持ちよくて目を閉じるとそのまま意識が薄れ
起きたら、ホテル
しかも、ブラ無し
「うわあぁああ!!」
「起きたか」
斗、斗貴子さんがいるなら
誰かに連れ込まれた訳じゃないって事で!!
で、でも!!下着が外されてるって事はもしかしてっっ
女の子同士でストロベリったっ?!
と、一瞬パニックを起こしたものの、斗貴子さんは全く持って変わりなく
「ブ、ブラ」
「あぁ、傷の手当に外したんだが」
気まずそうに差し出されたソレ
「一応、洗ってみたが」
「あ、破れてる……うわ、ワイヤーまで!!!」
「買いに行くにも、まだ時間が早くて開いてなくて」
「…・・・核鉄の治癒能力で」
「直せるかっ!!」
「ノーブラでも、いっかなぁ」
「待て!!!」
結局、斗貴子さんに借りる事になったのだが
斗貴子さん、細くて
「アンダーが違いすぎてて……」
「……所詮、カップも違うしな」
斗貴子さんらしい、ベージュのスポーツブラはきつすぎて
「さらしを撒いておくか」
そう云って、布を出した斗貴子さんは
「あたっったたたた」
力いっぱい、さらしを撒いてくれた。
斗貴子さんの淹れてくれたコーヒーを飲みながら、会話をしていて
この街にいる間はこのホテルを仮住まいにしている事
本来なら高校3年生となる事を知る。
そして、彼女がとてもホムンクルスを憎んでいる事も。
それは、当たり前かもしれないけれど
優しい彼女には似合わないほどの憎悪を現わされた事で
どれほど辛い思いをしてきたのかを感じる。
「今日は土曜日だから、一日掛けてさがすぞ」
蛙から聞き出した情報から、創造主が寄宿舎にいる事が解り
二人で寮へと向う。
「斗貴子さん、一度、部屋に戻ってよい?」
「何故?」
「着替えたいんだ」
「あぁ、そうだな」
ブラが破れているのだから、当然、制服も破れている。
上着を借りて何とか破れたところを隠すものの
もう、この制服は着られない。
「核鉄の治癒能力……どうせなら制服も直してくれたら」
「あぁ、制服なら明日には届く」
「え?」
「キミを最初に助けた時、既に一枚制服を駄目にしただろう」
「うん、でも、そういわれれば、あれどうやって直ったんだろう??」
「勝手に直るわけ無いだろう」
つまり、襲われて死んだ後に核鉄埋め込んで
制服のポケットにあった生徒手帳から寮を割り出し
寮に忍び込んで自分をベッドに運び入れて
駄目になった制服を脱がせて持って帰って処分
そして、翌日の昼間
再度部屋に忍び込み、新しい制服を部屋の洋服箪笥に掛けておく。
「制服は通常洗濯変えに大体2着は持っている
キミの洋服箪笥見たら、着ていた制服以外に2着あったな」
「あ、よく破くからって親が最初から3枚用意してくれて」
「キミは翌朝、一着足りなくなっている事に気が付かなかったんだろう。
帰ってきた時には、新しい制服を入れておいたからな。
新品なのには違和感が感じるかもと思っていたが……」
すみません、気が付きませんでした。
「昨夜、戦団に連絡して制服は用意して届けて貰うように連絡しておいた」
「ブラは……」
「領収書を貰ってこれば、今回のモノは経費扱いできる」
「ブラは高いから、助かる」
「それは良かったな」
取敢えず、学校も無い事だし箪笥からスポーツブラとTシャツとジャージ上下を出す。
「ジャージ?」
「うん、動きやすいから」
二人で寮の中を聞き込むが、土曜日は半数以上の生徒が帰宅する為
中々手懸りがつかめない。
斗貴子さんの提案で、二手に分かれることにする。
「学校に忍び込んで出席簿をチェックしてくる」
「このまま聞き込みするけど…」
斗貴子さんが創造主の特徴を書いたメモをくれたのだけど正直、解りにくい。
「似顔絵でも描いてみるか…しかし、私に絵心は無いし」
「大丈夫!!何を隠そう私は似顔絵の達人よ!!」
身長は175センチ位
痩せ型で姿勢は良い
髪は前分けで頬のトコは少しシャギーっぽく
後ろは長くストレートに近いが、髪の毛の先はフワリと丸まっていて
肌は色白というより蒼白
面長で顎の線は細く鼻は高め
口はやや大きく唇は紅い
目はつり目 眉は細くつり上がっている
「後は、ドブ川が腐った様な色の目」
入魂の一筆!!
自信作を見て、何故か、斗貴子さんは無言だったけど。
とにかく、似顔絵を見せて回る。
「昨日、どこに泊ったの?」
「心配だから、連絡はしろよ」
「うわ、変態さんがいる」
まひろに少し怒られたが
一緒に探してくれるとついて来る。
「あ、あの人、三年生だよ。聞いてみよう、すいませーん」
ちょっと、聞きたい事がと話しかけると
掌で遮られ
「少し、お待ち頂ける?先に、これを飲ませて欲しいの」
寮の裏手にある、誰でも飲める水道。
その、コンクリートの上に並べられた異常な迄の種類の薬。
そんなに飲んで大丈夫なのかと訊けば
「大丈夫ではないけれど、飲まないと、身体が持たないの」
「身体、弱いの?」
「えぇ、そうなの……それより、私に何か御用?」
「あ、そうでした。三年の女子寄宿生で昨日までの4日間学校を休んでる人を探してるんですけど」
「今のとこ、誰もそんな人知らないって」
『そう・・・貴女が』
「え?」
「いえ、そう。そんな人はいない、ね。だとすればその彼女は透明な存在なんでしょうね」
目には映っていても、風景の一部
居ても居なくても誰も気にとめないクラスメート
「可哀想ね―――他に、解っていることは?」
言われて渡す似顔絵。
彼女も斗貴子さんの時の様に黙ったままで。
「やっぱりいないですよね、こんな人
いたらただの変態さんか女王様だし」
「そう?仮面だけなら結構お洒落さんだと思うけど?」
「おねぇちゃんお洒落間違ってる!!」
「いえ!!正しい!!」
物静かそうだった先輩が、いきなり顔をがばりとあげる。
「そう、この仮面は素晴しいの―――蝶々は素晴しいわ!!
パピヨンのマスクはね、華麗なる『変身の象徴』なのよ」
その、蝶々を語る表情は恍惚とし
うっとりと絵の中のマスクを指先で辿る。
斗貴子さんの言っていた
『ドブ川が腐った様な色の目』
綺麗な女性なのに、何処かが歪だった。
特徴を目の前の彼女と照らし合わせればピッタリと合い
拙いと思い、まひろに昼食を食べに行くため皆で先に玄関に行くよう促す。
「私、去年一年間ここで暮したけど先輩の顔に見覚えが無い・・・・・・」
「言ったでしょう。彼女は透明な存在……いつも、風景の一部でしかないのよ」
目の前の女性がいきなり吐血する。
ポケットの中の携帯が鳴り慌てて出れば、知らされる女性の正体。
蝶野 攻爵 19歳
これが、彼女の名前――――そして、パピヨン仮面の創造主
「自分の力では、命すら保てない最弱の芋虫
けれど、見つけてしまったの―――偉大なる錬金術の力を」
装着されたパピヨンマスク、そして、差し出された解毒剤
「ねぇ、事故対策用に作った自分用。一個だけの希少価値」
でもね、最後の実験が終ったから
もう、自分には不要になったの
「貴女の核鉄と、交換は如何かしら?」
もしも、自分の命でなければ交換したかもしれない。
「コレは、渡せない」
「そうでしょうね。武器を手放せば自分が一気に不利になりますもの
―――――私だって、自分の命が一番惜しいわ」
それは違うと、先輩に告げる。
自分が一度死んでいる事、そして核鉄は心臓の代わりとして貰った事を説明すると
先輩の血塗れの唇がニタリと裂ける――――どう見ても、尋常じゃ無い。
はぁはぁと息遣いは荒くなり、蒼白だった頬に赤みが差す。
「核鉄にそんな力が!!」
「貴女は、そんなに簡単に新しい命を手に入れたの?」
ゴパァ
叫び、大量の血を吐きながら笑みを浮かべ
「頂戴!!その新しい命をよこしなさいぃぃっっ!!」
掴みかかってくる彼女の、勝手な言い分に切れる。
「アンタの創ったホムンクルスの所為で沢山の人が死んだのに!!
なんでアンタに新しい命なんか!!!」
繰り出した拳はパーでなくてグー
顔面に入ってしまい後ろに倒れる創造主
素手の彼女を殴ってしまった事で、思わず、こちらが慌てふためく。
倒れこむ創造主の薬を受け取った斗貴子さんは、「偽物だ」の一言で、ぽいとそれを捨てる。
彼女は、ただ、ホムンクルスを創った以外は普通の人間だと知らされ
余計、グーで殴った事が気にかかる。
女の人相手にやりすぎたかも知れない。
「キミは、甘すぎる」
呆れ顔で言う斗貴子さんは猫の子でも摘むように気絶した創造主の首を摘み
創造主 蝶野 攻爵の寮の部屋へと引きずっていった。
「蝶野 攻爵 明治から続く貿易商を営む資産家の長女
入学試験での成績は全科目満点でIQテストは230
普通にいけば学校創設以来の天才になる筈だった」
入学してすぐ原因不明の病気の発症
治療法も無く免疫力が低下してやがて確実に死に到る。
入退院の繰り返し、2回の留年
ここへひきこもり生活
彼女を知る生徒は殆ど居ない。
先生も匙を投げた状態
聞いているとキリキリと心が痛む。
気絶している間に、顔にこびりついた血を拭取り
パピヨンのマスクは寝かせた彼女の胸の上にそっと置いた。
やがて、目を覚まし自分達を見るとにぃっと嗤う。
寝台に座りなおし手で仮面を弄びながら、彼女は自分達の会話の訂正をする。
「訂正して頂ける?
例えひきこもっていても、今だって学校創設以来の天才に間違いは無いでしょう?」
そして、自分に向って微笑むと
「ね、言ったとおり……彼女は可哀想でしょう?」
その問いに答えられず、黙って見つめる。
その瞳の色はともかく、顔は美女と言って良いほどに整っている。
「一つ、問う」
どこで、錬金術とホムンクルスの製造術を手に入れたのかと斗貴子さんの質問に
実家の蔵で高祖父の半世紀に渡る研究日誌を基にして研究したのだと自分の才能を讃える。
創った理由はひとつ。部屋の隅に設置されているホムンクルス本体。
人間型のホムンクルスになるため
「超人となり、この世でもっとも不老不死に近い存在になるの」
嬉しそうに語る彼女は、まるでクリスマスに欲しい物を買って貰える子供のような無邪気さで。
「でも、ホムンクルスは人を食べて生きるんでしょう?」
どうしても、それだけは許せなくて先輩に問う。
今までも沢山の犠牲者を出して、これからも犠牲者を増やし続ける存在になってまで――――
「あんた、そこまでして生きたいの!」
「生きたいわ。
さっき言ったでしょう。誰だって、自分の命が一番だって
私は自分が生きるためなら、どんな手段でも使ってみせる」
そこには、なんの後悔の色も無く。
ゾッとすると同時に、怒りが沸いて来る。
けれど、ソレを見越したように彼女は微笑む。
「貴女はどうなの?一度、死んだんでしょう?
生きたくありませんって言うなら、死んだままでいらしたら如何?
あぁ、ここで、貴女がその心臓にある核鉄を私に譲って下されば良いじゃない。
私は生きたいんですもの」
何も、言い返せなくなる。
口元には笑みが浮かべられているが、先輩の目には、どんどん憎しみの色が濃くなっていく。
「貴女、自分はのうのうと生き返って、私にはこのまま死ねと?
病という運命を受入れて何も努力せずに死ねと?
貴女だったらどう?自分が生き延びる事ができるだけの『力』があるのに
それを使わずに、痩せ我慢して死んでいけるの?」
「死んでしまえ」
黙っていた斗貴子さんが、これ以上に無い憎悪を現わし一言で切り捨てる。
「どのみちオマエは超人になどなれない!あれは、今すぐ破壊する」
核鉄を構えようとした斗貴子さんに、先輩は慌てて立ち上がり阻止しようとする。
「おやめ!!あと、二日で完成なのよ!
アレを使って、私は芋虫から蝶になるの!!私の新しい命なの!!」
それは、悲痛な叫びだった。
蒼白な顔、見開かれた瞳――――それが、歓喜の色に変わる。
物凄い空圧
破壊された寮
舞い降りた鷲方ホムンクルス。
先輩は、大事そうに両の手でしっかりとフラスコを抱きしめ叫ぶ。
「貴女は化け物になって死になさい!私は超人になって生きてみせる!!」
「どっちも、阻止してみせる!!」
「そう……貴女も、私に死ねと言うのね」
こほ、と軽く咳き込むと同時に又、血が唇から溢れる。
その姿は痛々しく、確かに同情の念が浮かぶけれど
「違う!人に軽々しく死ねなんて言えない!」
それでも、彼女のしたことは間違っている。
「ねぇ、今まで犠牲にした人達をちゃんと償って、それから、命が尽きるまで生きて!!」
必死に彼女に言葉を届けようとするが、時間が無かった。
状況が状況なだけに、人が集まるのは時間の問題で。
「創造主、ここは私に任せて早くお逃げ下さい」
二手に分かれて闘う予定があっけなく鷲型のホムンクルスに二人とも捕まり
「鷲尾は、出来が違ってよ」
鷲のホムンクルスに捕まれたたまま飛び立たれ
先輩の姿がどんどん遠くなる。
もっと、話したい
必ず、もう一度彼女と話すんだ。
もう、姿は見えなくなったのに
彼女の顔が、声が、こびりついて離れない。
――――必ず、もう一度
「斗貴子さん!!」「解ってる!!」
「「武装錬金!!」」
この闘いに勝って、必ず彼女を探し出す。
目の前の敵を倒し、もう一度。
―――――もう一度
それは、誓いにも似た祈りだった。
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