咳が止まらない。
あまりの酷さに薬を持って鷲尾が駆け寄る。

「創造主、大丈夫ですか?」
「ふふ……自分の体調も考えずに、お前の背中に乗ったのが拙かったかしら」

錬金の戦士には、蛙型ホムンクルス蛙井の小ガエルつけてあり
情報はこちらに筒抜けではあるが

「ところで、蛙井」
「あい?」
「もう一人の同じ学校の生徒は誰なのか、本当に判別つかないの?」

こちらの問いにへらへらと、小ガエルの目が悪くてと言い訳する蛙井。
所詮、元のレベルが低ければ
ホムンクルスにしてやっても、中身のレベルは低いままらしい。



最後の実験を始めましょう。
これが成功すれば、私は蝶になれる。



ニタニタと嗤う蛙井は
「それじゃそろそろ帰ります~~」
そう云って部屋を後にする。

それを黙って見送っていたバラ型ホムンクルスが、自分の前に進み出る。

「創造主」
「花房」
「あの男が何かを隠してるのは確か。私、見張りますわ」
「そう、お願いするわ。何かあったら、処分してくれる?」
「畏まりました、創造主」

さらりと落ちる髪を掻きあげて妖艶に嗤う。
花房は、その髪の美しさが自慢だった。

部屋の扉が閉まり、鷲男だけが残る。
読みたい本を取らせると

「あまり無理はなさらない方が……」

そう云って、心配げな表情になる。

「大丈夫よ。ありがとう」

確かに、少し休んだ方が良いかもしれない。
けれど、時間は待ってくれない。
ホムンクルスになったら、充分に休めばよい。







―――――ホムンクルスにさえ、なれたら。







けれど、ホムンクルスになれても死は訪れる。
まだ人間の私より、先に逝くのね。
倒せたら、必ず連絡が来るはずなのに着信も無く。
朝になれば必ず姿現わす花房も現れず。
蛙井と花房の携帯も繫がらない。
己が作り出したものだからであろうか?
ホムンクルスが消えると、何故か何となく解るのに気が付く。
蛙井と花房はもう、戻らない。
喪失感で目が覚めた、土曜日の朝。




蛙井は、性質の悪い男だった。
部屋に引きこもり始めて間もない頃。
ネットの世界にのめり込み、ある書込み自由の掲示板で知り合い
チャットを経てメールの遣り取りもあった。
しかし、こちらが女と解ると何かにつけて馬鹿にする様になり
些細な事から始まった口論が元で嫌がらせメールが始まり
攻撃は酷くなる一方だった。
苛々としているところに、ひっきりなしに届くメール。
その内、どこから嗅ぎつけるのか
自分が掲示板になど書き込みをすれば
必ずその場所を荒らすようにもなった。
ネットでも、自分の居場所が無くなっていく。

けれどメールや掲示板での仕返しなぞ、私には意味が無かった。

ネットでの蛙井を見ていると、自分以外にも攻撃を受けたり潰されたサイトもあった。
いやらしい攻撃の仕方と言い、人の神経を逆なでする上手さと言い、ネットの知識と言い
使いようによっては面白いかもしれないと思った。

どうせなら、本人を突き止めてホムンクルスにしてみましょう。

メールが何処から発信されているか調べ
家を割り出し、本人を割り出し
ひきこもって滅多に出歩かない蛙井だが、夜中にコンビ二へ出かけるのを突き止め


結局、アレは出来損ないだったけれど。








花房は、父親が自分につけた家庭教師だった。
そして、一番最初にホムンクルスにした。
父親に言われて、放課後の自分を見張る役目も持ち
あわよくば、父は無理でも弟の次郎辺りは垂らしこもうと
蝶野の財産を狙って必死だった。
髪も爪も完璧に手入れし、己の美しさを誇示し
無駄に色気を振りまく花房。
それは、自分に対しても
弟や父親に、自分を通して評価を上げさせようと
良き理解者を演じ、少し、大人の知識を与え
一緒に買い物へ行き、可愛い妹の様の思っているのよと笑っていた。



それが、一転したのは発症後



『まったく、役立たずね。無駄な時間だったわ』
『治らないなら弟の次郎さんが跡継ぎになるわね。あちらの家庭教師にならないと』
『あんな可愛げの無い娘、お金貰ってなきゃ相手になんかしないわよ』


病院の帰りに花房を見つけて
声を掛けようと近寄った時に聞こえた会話。


『あ~~でも、ちょっと嗤っちゃうわね。
 頭でっかちで、恋愛の経験も無い可愛げの無い娘でしょ。
 腐るほどの金持ちでも親からも見離されて、友達も居ないんだから』
『居ないわよぉ、間違いないわ。楽しい思い出なんてないんじゃない?』
『頭よくっても、お金があっても、死ぬんじゃ意味ないわね』
『あ、でも、入院とかして死にかけたら病院に駆けつけて
 「死なないで」って泣いてやっても良いわ』
『ほら、家族揃うし間に合わなくても看護士や医者から聞くでしょ。優しい家庭教師のお姉さんて』

一緒に歩いている女友達は『アンタ、わっる~~』と笑っていた。

あまり出歩く事を許さない父ではあったが
家庭教師として付けた花房が一緒であれば、買い物や外食を許してくれた。
中学生だった自分は、神童と呼ばれるくらいに頭は良く
家庭教師なんて意味は無いと馬鹿にしていた。
それでも花房は、外へパフェを食べに連れて行ってくれたり
眉毛の整え方や、色つきリップを教えてくれたり
髪の手入れを教えてくれたり、勉強以外で自分が知らない事を教えてくれた。

そして、自分が花房の
『楽しい思い出なんてないんじゃない』
と言う言葉を聞いて思い浮かんだのは
そんな、花房と街に行った思い出しかなかった。


別に、悲しくなんて無い―――だって、涙も出ないじゃない。


何だか、とても寒いけれど
部屋に帰れば、それすらも忘れるわ。
いつも、家庭教師なんか要らないって思っていたし
あの女が弟の家庭教師になりたいならなれば良い。
高校生になっても、寮に入っても、目付け役を兼ねて家庭教師は付けておくと父は言った。
だけど、もう、父も今の自分には必要ないと思っているだろう。



その夜、父に電話を掛けて病状が思ったよりも悪く
自分が治るまでは、花房を弟の家庭教師にしておいて欲しいと伝えた。
実際、蝶野の懇意にしている病院に掛かっているのだから
自分が連絡しなくても、院長から知らせは行っているだろう。
思ったとおり父親は『解った』とだけ言って電話を切った。

跡取りに出来そうも無い自分とは、話す時間も勿体無いのであろう。

花房を切らず弟につけたのは、いずれ、ホムンクルスの実験の際に使いたかったから。
植物型のホムンクルスを最初に創る時、
食虫植物や天人唐草では無く、美しい薔薇に決めたのは
花房への最後の贈り物。



彼女は、ホムンクルスになってから本当に忠実であった。
毎朝、髪の手入れをし、時間があれば手だけではなく足の爪まで鑢で磨き
資料で足りないものや、蝶野の家から取り寄せたいものがあればすぐに手に入れてきた。
動けない自分が手に入れたいものは、花房が動いた。
正直、生理用品や下着やシャンプー等の頼みにくい日用品も、花房になら買いに行かせられたし
その内、頼まなくても買い置きされるようになった。
熱が出て、お風呂に入れない時に身体を拭かせたり
着替えの用意や食事や看病等も、同性なので気軽に任せられた。






花房が買い置きしてくれたものが尽きる前に、ホムンクルスにならなきゃね。
もう、気軽に買い物に行かせたり身体を拭かせたりできるモノが居ないのだから。







今朝は、漸く、体が楽になってきていたが薬の何種かは切れていた。

「花房」

いつもの癖で呼んでしまうが、勿論、現れる筈も無く。
仕方なく、制服に着替えて診察券を財布に入れる。
土曜日でも、午前中は受付可能だから、薬だけは貰いに行って置かなければ。
途中、発作が起きた時に飲める様に、幾つかの薬と水筒を鞄に入れる。

「鷲尾、病院に行ってきます。
 オマエは空から街やオバケ工場を見回り、錬金の戦士達の動向と花房・蛙井の行方も念のため探って置いて」

昼頃には戻ります。
オマエもその頃には一度戻りなさい。

「畏まりました、創造主」

外にでて、タクシーを拾い病院へ行き薬を貰う。
それだけのコトがとても面倒臭く感じられる。
少し動けば、ふらつくし咳き込めば嫌な顔をされる。
気をつけなければ吐血する事もある。
山のような薬を貰って寮に帰るも、裏側の水のみ場で我慢できなくなった。

部屋に帰って飲むより、ココで飲んだほうが楽ね。

今までは定期的に飲む薬は花房に用意させ、水を運ばせたが
これからは、そうはいかない。
鷲尾はまだ帰ってきてないだろうし。
久々に長距離動いて疲れもあった。
コンクリートの上に薬を置いて水筒のコップに水を汲む。
薬を飲もうとした所に、後ろから声が掛けられる。

「あ、あの人、三年生だよ。聞いてみよう、すいませーん」

声を掛けてきたのは栗毛色のロングへアーで明るい声の女の子。
その後ろには、私ほどではないけれど背が高いショートカットの女の子
ちょっと、聞きたい事がと話しかけられたが、薬を飲みたいので掌で遮り

「少し、お待ち頂ける?先に、これを飲ませて欲しいの」

並べられている薬を見て

「そんなに飲んで大丈夫ですか?」

思わず、笑いそうになる。
大丈夫な訳が無い。どうして、そんな聞いても無駄な事を訊ねるのだろう?


「大丈夫ではないけれど、飲まないと、身体が持たないの」
「身体、弱いの?」
「えぇ、そうなの」

会話の合間にも薬をシートから出し、錠剤を幾つか口に含む。
何種あるかなど、自分でも数えていない。
待たされている二人は、どんどん薬を飲んでいく姿に、ただただあっけに取られていた。

「……それより、私に何か御用?」

飲み終わって、一息ついて声を掛けてやれば

「あ、そうでした。三年の女子寄宿生で昨日までの4日間学校を休んでる人を探してるんですけど」
「今のとこ、誰もそんな人知らないって」


『そう・・・貴女が』


思わず、口を付いて出た言葉。

「え?」
「いえ、そう。そんな人はいない、ね。だとすればその彼女は透明な存在なんでしょうね」

目には映っていても、風景の一部
居ても居なくても誰も気にとめないクラスメート
所詮、その程度の存在

「可哀想ね―――他に、解っていることは?」

差し出された似顔絵。
……何だか、物凄いことになってる!!
昔の、アメコミってこんな感じのヒロインが確かに居たかもしれないけれど
コレを見せて回ったとしたら、誰も、私だとは気が付かないと思うのだけれど……


「やっぱりいないですよね、こんな人
 いたらただの変態さんか女王様だし」
「そう?仮面だけなら結構お洒落さんだと思うけど?」
「おねぇちゃん、お洒落間違ってる!!」

「いいえ!!正しい!!」

そう、蝶々の仮面には意味がある―――吟味に吟味を重ねて選んだこのマスク。

「そう、この仮面は素晴しいの―――蝶々は素晴しいわ!!
 パピヨンのマスクはね、華麗なる『変身の象徴』なのよ」

うっとりと絵の中のマスクを指先で辿る。
美しい蝶々、今もこの胸にある。
ショートカットの少女の目付きが険しくなる。
どうやら、こちらの正体に気が付いたようね。

「まひろ」

隣に立つ、何も知らぬ気なロングヘアーの女の子はまひろと言うのね。
その子に、昼食を食べに行くため皆で先に玄関に行くよう促すと
ショートカットの少女は改めて此方を真っ直ぐ見つめてくる。

「私、去年一年間ここで暮したけど先輩の顔に見覚えが無い・・・・・・」
「言ったでしょう。彼女は透明な存在……いつも、風景の一部でしかないのよ」

そして――――ゴプリと嫌な音と共に吐血する。

内心の興奮と僅かな不安が溢れ出たようだ。
少女のポケットの中の携帯が鳴り慌てている。

携帯から漏れる声に私の名前が聞こえる。

あぁ、今の私は―――

「自分の力では、命すら保てない最弱の芋虫
 けれど、見つけてしまったの―――偉大なる錬金術の力を」

パピヨンマスクを取り出して装着する。
相手が攻撃に転じれば、今の自分は勝てない。
切り札は、あの女の為の解毒剤。
無論ココで本物を出すほど愚かではないけれど

「ねぇ、事故対策用に作った自分用。一個だけの希少価値」

でもね、最後の実験が終ったから
もう、自分には不要になったの

「貴女の核鉄と、交換は如何かしら?」


交換条件を出せば、少女の表情が曇る。


「コレは、渡せない」
「そうでしょうね。武器を手放せば自分が一気に不利になりますもの
 ―――――私だって、自分の命が一番惜しいわ」
「それは、違います。コレをもし渡してしまったら――――」


それは、新たなる衝撃
追い求めていた新しい命が、目の前にあるこの事実。
少女が一度死んでいる事、そして核鉄が心臓の代わりとして働いている事
ゆえに、核鉄を渡してしまえばその場で命尽き解毒剤を仲間に渡せない事
口の端が自然に上がり、息がはぁはぁと荒くなり、興奮が隠せなくなる。

新しい命が目の前にある
自分が追い求めていたものがそこに
ホムンクルスにならなくても、簡単に心臓に埋め込むだけで生かされている少女

「核鉄にそんな力が!!」

「貴女は、そんなに簡単に新しい命を手に入れたの?」

ゴパァ

今までに無い大量の血を吐きながらも、浮かんだ笑みが消える事は無い。
あぁ、こんなに心踊ったのは初めてね。

「頂戴!!その新しい命をよこしなさいぃぃっっ!!」

溜まらず掴みかかろうとすれば、

「アンタの創ったホムンクルスの所為で沢山の人が死んだのに!!
 なんでアンタに新しい命なんか!!!」

殴られただろうことは解ったが、そこまでだった。
気が付けば、私室の寝台に寝かされていて
ショートカットの女の子が心配そうにこちらを覗き込み
その後ろで錬金の戦士が仁王立ちしていた。

鷲尾は、まだの様ね。

鉢合わせしなかった事を幸運に思う。
あれは、動物ゆえに聴覚も鋭い。
ここの会話も外から聞こえるであろうし、
何よりこの殺気だった気配に気が付けば隙を見て私を助けようとするだろう。
殴られた箇所だけでなく、何故か全身が痛いが、倒れたときにでもぶつけたかと溜め息を吐く。
錬金の戦士が私の名前を口にする。


「蝶野 攻爵 明治から続く貿易商を営む資産家の長女
 入学試験での成績は全科目満点でIQテストは230
 普通にいけば学校創設以来の天才になる筈だった」

入学してすぐ原因不明の病気の発症
治療法も無く免疫力が低下してやがて確実に死に到る。
入退院の繰り返し、2回の留年
ここへひきこもり生活

彼女を知る生徒は殆ど居ない。
先生も匙を投げた状態

以上の事実をつらつらと述べられ
よく、短い時間で調べついたなと感心する。
ショートカットの少女が、こちらを見て辛そうな表情になるのが不思議だった。
顔からは取れていたが、返されていたパピヨンのマスクを手にしているだけで不安が解消される。
私は、絶対に蝶になるのだから。
寝台に座りなおし手で仮面を弄びながら、その会話を聞いていたが
錬金の戦士に訂正を入れる。

「訂正して頂ける?
 例えひきこもっていても、今だって学校創設以来の天才に間違いは無いでしょう?」

そして、辛そうな表情の少女に

「ね、言ったとおり……彼女は可哀想でしょう?」

そう言って笑いかければ、じっとこちらを見つめてくる。
真っ直ぐな瞳と力強い眉毛。
顔は決してて美人では無いが、愛嬌があるタイプだ。
多分、真っ直ぐな気性をしているであろう事は顔からも、言葉からも充分に解る。

「一つ、問う」

どこで、錬金術とホムンクルスの製造術を手に入れたと質され
実家の蔵で高祖父の半世紀に渡る研究日誌を基にして研究したのだと笑ってみせる。
創った理由はひとつ。この部屋の隅に設置しているホムンクルス本体。

人間型のホムンクルスになるため

「超人となり、この世でもっとも不老不死に近い存在になるの」
それが、今の私が生きるためのたった一つの希望。

「でも、ホムンクルスは人を食べて生きるんでしょう?」

きつい瞳で睨み付け、当たり前の事を問う少女。
それは、今までの犠牲者と、私がホムンクルスになる事でこれからも増えるであろう犠牲者についてだった。

「あんた、そこまでして生きたいの!」

当たり前な事を訊かないで。
人が牛や豚を食べるのと一緒で、弱肉強食と言う言葉をご存じないの?

「生きたいわ。
 さっき言ったでしょう。誰だって、自分の命が一番だって
 私は自分が生きるためなら、どんな手段でも使ってみせる」

少女の顔色が変わる。
怒りと絶望の色に染まる彼女が、とても幼く愛らしく見えた。
そんな彼女に思わず笑みを向けてしまうが、彼女の新しい生命に気がつき嫉妬で狂いそうになる。

「貴女はどうなの?一度、死んだんでしょう?
 生きたくありませんって言うなら、死んだままでいらしたら如何?
 あぁ、ここで、貴女がその心臓にある核鉄を私に譲って下されば良いじゃない。
 私は生きたいんですもの」

何も、言い返せない彼女に更に追い討ちを掛ける。
正義を振りかざし正義が勝つと思っている、幼い思考のままの幸せな少女。

「貴女、自分はのうのうと生き返って、私にはこのまま死ねと?
 病という運命を受入れて、何も努力せずに死ねと?
 貴女だったらどう?自分が生き延びる事ができるだけの『力』があるのに、
 それを使わずに、痩せ我慢して死んでいけるの?」

「死んでしまえ」

黙っていた錬金の戦士の、怒りに満ちた声音が響く。

「どのみちオマエは超人になどなれない!あれは、今すぐ破壊する」
核鉄を構えようとした錬金の戦士を阻止しようと立ち上がる。
「おやめ!!あと、二日で完成なのよ!
 アレを使って、私は芋虫から蝶になるの!!私の新しい命なの!!」


その叫びが届いたのか、空圧と共に屋根をブチ破り鷲尾が降り立つ。


両の手でしっかりとフラスコを抱きしめ叫ぶ。

「貴女は化け物になって死になさい!私は超人になって生きてみせる!!」
「どっちも、阻止してみせる!!」
「そう……貴女も、私に死ねと言うのね」

こほ、と軽い咳きと共に、血が唇から溢れる。

「違う!人に軽々しく死ねなんて言えない!」

どこまでも、真っ直ぐな瞳で少女が避けぶ。

「ねぇ、今まで犠牲にした人達をちゃんと償って、それから、命が尽きるまで生きて!!」

必死に自分を説得しようとする声。
けれど、状況が状況なだけに、人が集まるのは時間の問題で。
既に、鷲尾には人々の声や近づく音が聞こえているのであろう。

「創造主、ここは私に任せて早くお逃げ下さい」

二手に分かれて攻撃を試みようとした二人はあっけなく鷲尾に捕まった。

「鷲尾は、出来が違ってよ」

キイィイイン

高速で飛び立つ羽音
鷲尾が飛び立つと同時に、更に屋根と壁が崩れる。
最後の最後まで、自分を見つめ続けた瞳。


綺麗事ばかり言う偽善者――――私が一番きらいなタイプだわ


崩れた部屋――――もう、ここに居られない。
残った物は、完成間近のホムンクルス本体。

……また、居場所が無くなってしまったのね。
後、二日……私は、何処に行けばよいのかしらね。

行く当てなど、もう、一つしかないのだけれど――――それでも、本当は行きたくない。
けれど図書館や街に行ったところで、自分の居場所が無いのも解っている。









手の中にあるフラスコだけが、自分の全て。
これを守り、蝶になり羽ばたく――――死にたくない、絶対にまだ死にたくない。


ふらふらと、部屋から出て、生徒達が集まるのとは逆の方に歩き始める。
疲れたけれど、まだ、諦めない。

けれど

最後まで、自分を説得しようとしていた彼女の顔が、声が、こびりついて離れない。











何故、今になってそんな事を言うの?
どうして、私の邪魔をするの?
邪魔をしないで―――――――お願い、私はまだ、死にたくないの










                                   NEXT⇒