それは、ある夜に見た夢。
自分と同じくらいの年齢の少女が歩いていた。
その後ろには、見たことの無い怪物。
気がつかない少女に、容赦なくその牙が襲い掛かる。
『駄目っ!!危ない!!!』
勝手に、身体が動いて少女と怪物の間に躍り出て

そして――――









 蜜   









「うわぁああああ!!!」

少女の悲鳴が深夜の寮に木霊する。
「なに??」「どうしたの?!」「かずき??」
パパパッと、部屋々々の電気が付き隣室から飛び出す少女達。
扉を開ければ、眠ったまま暴れる少女。
おろおろしたままの少女達の間を

「ごめんねぇ、あ、本当にいつもすみません……」

頭を下げながら暴れる少女に近づき

「とぉっっ!!」

手近に合った本を手に取り、その角で暴れる少女の後頭部に一撃を加える。

「すみませんでした〜〜」

何事も無かったかのように、倒れこんだ少女をベットに転がし
深々と頭を下げた少女は何事もなかったかの様に扉を閉めた。
閉められた扉の前で、残された少女達は大きな溜め息を吐いた。






「おはよ、まひろちゃん。昨夜は大変だったんだって?」
「かずきが寝ぼけて暴れて凄かったんだってね?」
「こっちまで、叫び声聞こえたよ」
「そうなの、お姉ちゃんたら暴れて大変だったの」
「ごめん、まひろ」
手を合わせて謝るショートカットの少女『武藤 かずき』を見て、
三人の少年達は笑う。
「まひろちゃんも大変だね」
「かずきが寝ぼけて暴れるのはいつもの事だけど」
「何か、変な夢を見ちゃって」





銀成高校の寮から学校までの道、いつもの朝の風景。
かずきとまひろはとても仲の良い姉妹。
そして、同じ寮に入っている男子生徒の六舛・岡倉・大浜。
かずきと三人の少年は中学一年生からの付き合いだ。
まひろはかずきの後を追って銀成高校に入学し入寮した。
ショートカットで元気一杯、昔から遊ぶのは専ら少年達とチャンバラやサッカーだった姉のかずきと
ロングヘアーで明るさ一杯、スウィート大好きロマンス大好きの妹まひろ
この姉妹の仲の良さは校内でも有名だったが、更に有名なのは姉、かずきのお転婆振りだった。
いつも仲間と一緒に起す騒ぎは『お転婆』等と云う言葉では到底収まるものではなく
それに巻き込まれぬようクラスの女生徒達は、かずきと仲は良いが一緒に行動する事は殆ど無い、
と、言うか一緒に行動する事を極力避けている―――何故なら、クラスの女生徒達の心は一致していたから。

『巻き込まれぬ場所から、見ているのが一番楽しい』

それは、とても賢い選択であった。

本来、男子生徒に囲まれている女生徒は
クラスの女子からは浮いて疎まれる傾向になりがちなものだったが、かずきは違った。
『あの娘なら、仕方ない』そう思わせる、何かがあった。
かずきの周囲にいつも居る男子生徒も、これまた一癖も二癖もある者達だったから
周囲からの評価も『もてもて女子』とは程遠い『4バカ』
これに、まひろも加わると『4バカ+1』
そんな風に、喧しくはあるが非常に平和な高校生活を送っていたのである。





それが、一転したのは
あの時の『夢』が夢では無かった事。
一度、自分は死んでいた事。
心臓に核鉄が埋められて生き返っていた事。
それを教えてくれたのは、あの時、助けようとした自分より一つ上の女性――――錬金の戦士 津村 斗貴子さん。


「これ以上は、私に係るな」


そう言ってくれたのに、それに従うことができなかった自分。


遅刻と鞄を失くして減点3点の罰掃除。
放課後に中庭の草むしり。




終った報告に行ったら、巳田先生が化け物になった。




痛む心臓、逃げる自分、鳴る携帯。
そして、喰われた、まひろ―――

よみがえった記憶と発動した『武装錬金』
砕け散った、化け物。


ホムンクルスに襲われて、危うくまひろの命まで危険に晒して


「君は、女の子なのに無茶し過ぎだ!」


物凄く、怒られて――――しかも、勘違いで死んだ事を知って『踏まれたり、蹴られたり状態』で泣きたくなった。
知らされた事実に落ち込む自分を見て

「けれど、私を助けてくれようとしたんだな。ありがとう」

綺麗に笑った斗貴子さんを見て、ちょっと、嬉しくなった。

―――けれど、そこまでで。

残党を倒しに行くと言う斗貴子さんに「一緒に行く」と申し出たところ、ばっさり切られ。

「妹と一緒に帰りなさい」

その言葉を残し、彼女は去っていった。












その時、帰っていれば―――――じわりじわりと己を蝕む毒のような、そんな恋に堕ちる事は無かったのかも知れない。







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