『SEXが、どんなものか位は知ってるよ?』
『へ~小猿ちゃんは、何処でそんな事知った訳?』
『だって、季節になると動物達が番うじゃん』
『あぁ、なるほど』
『じゃ、人間同士のは?』
『一応教えてもらったんだけどさ、男同士って大変だよな』
『『は?』』
キマジメナ アナタ
頭上から、ハリセン
落ちた先には、テーブルのW攻撃。
本日2打目の快心の一撃は、悟空の今までの人生で一番の痛さだった。
立ち上がった三蔵は、机に突っ伏している悟空の頭をバシバシと、未だハリセンで叩き続けている。
「猿、まず、聞くが、それは誰から得た知識だ」
漸くハリセンが止まったかと思えば、地を這う低音。
「誰って……」
「俺は、お前に性教育をした事が無い。だが、お前は色々知ってる。
その知識を、誰からどうやって知ったのか、聞かせろ」
三蔵の目はすわり、完全の怒りのオーラが溢れ出ている。
その迫力に、悟空は告白の答えを聞くのは後にして
取敢えず、三蔵に聞かれた事に答える事にした。
それは、悟空が三蔵との暮らしに慣れ始めた頃。
やたらと絡んでくる、坊主達が居た。
にやにやと嫌な笑みを貼り付けて、悟空を見るとひそひそと指差し何事かを話している。
ある日、その坊主達が中庭から部屋に戻ろうとしていた悟空に、声を掛けてきた。
「妖怪、お前、三蔵様の稚児なんだってな」
「チゴ??」
「しらばっくれるなよ。それにしても、三蔵様も趣味が悪い。
自分の師である先代の三蔵様を妖怪に殺されたのに、その妖怪を稚児にされるとは」
「何だよ、それ」
「ふん、白々しい。自惚れるなよ、妖怪。その内、お前なんか、飽きられて捨てられるんだ」
「三蔵様は案外、妖怪への復讐でこいつを稚児にされたのかもな」
「師匠を殺された仕返しに、妖怪を稚児にされたのか。
なるほど、そうかもな。稚児なんざ、所詮、慰み者。男の癖に、男の性欲処理に使われんだもんな」
「まったくだ」
云いたい放題言われていたのだが、意味が殆ど解ら無い為、反論も出来ずに立ち竦んでいると
回廊の角から悟空を可愛がってくれている、高齢の僧が悟空を見つけて歩み寄って来る。
悟空を囲んでいた坊主達は、その高齢の僧に気がつくと、慌ててばたばたと逃げ出した。
「じいちゃん」
「おぉ、悟空。大丈夫かの?」
「じいちゃん、俺……」
高齢の僧は、悟空の頭を撫でた後、付き従っていた若い僧達に何か耳打ちした。
そして、悟空の手を引いて自室へと招いてくれた。
そこは、三蔵の部屋とはまったく違い、畳敷きで茶室にもなるようになっていた。
茶釜が置かれ、湯が沸き立ち始めると
部屋のあちこちを物珍しげに見ていた悟空に座布団をすすめ座らせる。
この高齢の僧が、実は三蔵の次に偉い大僧正だと悟空が知ったのは、かなり後の事だった。
寺院の内情に関しての采配は、殆どを大僧正が取り仕切っている。
先程、耳打ちされた若い層が、小鉢に茶菓子を入れて戻り
何事かを大僧正の耳に告げると、スッと下がっていった。
点てられた抹茶と茶菓子に、すっかり機嫌を直した悟空ではあったが
大僧正に聞きたい事があった。
「じいちゃん、俺、やっぱり馬鹿なのかなぁ」
「何故、お前さんがそう思う」
「だって、さっき、あいつらに何か一杯言われたけど、俺、さっぱり解らなかったんだ。
なぁ、じいちゃん『チゴ』ってなに??俺は三蔵のチゴなの?」
大僧正は、暫く考え込んでいたが、稚児の意味に始まり
寺院内の悪習や悟空の言われた言葉の意味を、噛み砕いて解りやすく教えてくれた。
「のぉ、悟空。実はな、お前さんが三蔵様専属の稚児だと皆に言ったのは、わしなんじゃ」
「じいちゃんが?何で??」
「恥ずかしい事ではあるが、寺の中にも馬鹿は居てな。
形だけでも、三蔵様の専属の稚児としておけばな、余計な手出しがされにくくなるんじゃよ。
お前さんには申し訳ないことをしたと思うておるが、許してはくれんかの」
「じいちゃんは、俺を心配してくれたんだろ?
だけど、どうしよう……三蔵に迷惑かけちゃってるよね」
心底困ったように、菓子を手に持ったまま俯いてしまった悟空を見て、大僧正は声を出して笑った。
「お前さんは、良いお子じゃの。大丈夫、三蔵様はご存知じゃよ」
驚いて顔を上げた悟空に、大僧正はにこにこと笑う。
「ここだけの話しじゃぞ、悟空。本当はな、稚児の件は三蔵様がの、わしに言ってこられたんじゃよ」
それで、悟空の寺院内での地位が確保されるのであれば、
血迷った者達の愚かな行動で、あの子供が傷つく事の無い様にと
大僧正に頭を下げに来た、若き三蔵法師。
その人も昔、同じ様に守られていたのだと大僧正は知っていた。
「のぉ、悟空。あのお方はお前さんと出会われて、変わられたよ。
―――――――これからも、三蔵様を、頼みましたぞ」
深々と頭を下げる大僧正に、悟空も慌てて頭を下げ返す。
孫の嫁に頭を下げる好々爺―――――傍から見たら、そんな光景が延々と繰り広げられた。
その後も、揶揄されたり、馬鹿な質問をされる事はあったが
坊主達は、決して直接、悟空の身体に傷をつける様な攻撃はしてこなかった。
もし、直接殴ったり蹴ったりした跡を、三蔵に見つかりでもしたら
どのような報復がなされるか、解らなかったからだ。
勿論、手を振り払われたり、転んだように見せかけるため、足を引っ掛けようとしたり
後ろから押そうとしたりなどの、多少の小細工はあったものの
悟空の身体能力からしたら、そんな攻撃は何の役にも立たなかった。
「俺さ、三蔵が居ない時も三蔵に守ってもらってたんだよね」
「ふん―――ところで悟空。『馬鹿な質問』てのは、どんなのだ」
「あ~……
『普通に動けているが、薬を使っているのか?それとも、三蔵様のモノが小さいのか』とか
『三蔵様はお上手なのか』とか『三蔵様は閨でもあのように苛烈であらせられるのか』とか
あ、あと『実は赤ちゃんプレイがお好みと聞いたが、それは本当なのか』とか、そんな感じ?」
「……お前、何て答えてた」
「『小さいかどうかは三蔵しか知らないから解らない』
『巧いのかどうかは三蔵しか知らないから解らない』
『激しいのかどうかは三蔵しか知らないから解らない』
『あれって、赤ちゃんプレイっていうの?』」
「テメェ……」
「ほら、一々真面目に答えてたら大変だし」
「3つ目までは良い。が、最後のはおかしいだろう」
「だって、咄嗟にどう答えて良いか解らなかったし『赤ちゃんプレイしてない』って答えたら
じゃあ、どんなプレイしてんだって突っ込まれそうだし『赤ちゃんプレイ好きだよ、三蔵』って答えたら
寺院内が大変な事になりそうだし……『知らない』方が、誤魔化しやすいじゃん。
『俺と三蔵のどっちがオムツ替えてると思う?』っていうのも一瞬考えたんだけど、そっちの方が良かった?」
「……まぁ、良い。後で、そいつらの顔を教えろ」
それから
町で遊ぶようになって、そこでも色々な知識が入ってきて
八戒と悟浄と出会ってからは、更にその手の知識が増える事になる。
元々、坊主達に投げかけられた言葉の意味を知りたくて
悟空が悟浄にその意味を聞いたのが、始まりだったのだが
悟浄は剥きになった悟空をからかう為、三蔵の事をネタにする事が多かった。
『絶対アイツは右手が友達だよな』
『何だよそれ』
『こんな意味も解らないの~?子ザルちゃんは』
『三蔵に、ミギテなんて名前の友達聞いたことねぇよ!』
馬鹿笑いされた悟浄に、正しい意味を聞き
『意外と、道具とか持ってたりしてな?
悟空、一度三蔵の寝台のマットの下とか見てみろよ?
エロ本とか、道具とか隠してあるかもしんね~ぜ』
その発言の直後、悟浄は買い物から帰ってきた八戒の気孔に吹っ飛ばされた。
しかし、八戒が居ない時にAVを見せようとしたり
エロ本に載ってる、色々な道具を見せてきたり
SだのMだの、赤ちゃんプレイだのマニアックなプレイの説明をしたり
―――そのお陰で、坊主達の馬鹿な質問をかわせる様になったのだが―――
お陰で、悟空は完全に知識のみはしっかりと、身についていったのである。
「取敢えず、河童は殺す」
「その都度、八戒が充分に制裁してたから大丈夫。
それに、悟浄のお陰で知識が増えて、坊主達に言い返すことも出来たんだし」
「余計な知識つけやがって」
ケッと吐き捨てる様に言い放つ三蔵に、悟空はくすりと笑う。
「余計な事もあったけど、でも、俺には必要な知識も一杯あったよ。
三蔵、そう言う事は何にも教えてくれなかったんだもん。
だから、色んな知識貰った中に、夢精についてもあってさ
あの日、夢から飛び起きて、起きたら起きたでびっくりして
知識はあったけど、どうしようかなぁ……って思ってたら
八戒が起しにきてくれてさ」
悟空の異変に気がついた八戒は、ほんの少し困った表情の悟空に
『子供の成長って少し寂しくて、嬉しいものですね』
そう云って頭を撫でてくれて、下着の洗い方なんかを教えてくれた。
「俺ね、でもちょっとだけ、ほっとしたんだ」
三蔵の傍にいる時で無くて、良かった。
三蔵に知られるのが、凄く凄く恥ずかしくてさ。
「けど、自分の身体の変化で初めて気がついたんだ」
三蔵は?
三蔵にだって当たり前にある事だ。
寧ろ、自分より大人な彼には、もっともっと色々な事があるだろう。
「これが、嫉妬っていうんだなぁって思うぐらい、どろっどろの感情が身体中に満ちたね」
うんうん、と頷きながら語る悟空。
「そう云う訳で、俺も色々考えて。
俺は、やっぱり好きな人としたいから、だから、三蔵に告白して、一歩ずつ進んで行きたいと思ったんだ」
三蔵は、疲れ果てていた。
もう、思い切り飲んでそのまま眠りたかった。
しかし、悟空の追撃の手は、緩む事が無かった。
「だけどさ、一歩ずつなんて言ってる場合じゃ無かったんだよね」
悟空の手が、再び拳を握る。
「三蔵が外で誰かと寝てるなんて、俺、嫌だもん」
きゅっと、唇が噛まれる。
「あのな、身体と恋愛は別もんなんだよ」
「でも、俺はどっちも繫がってる気がするんだ。
好きだから夢に見たり、好きだからキスしたくなったり、好きだから抱きしめたくなるんじゃん!!」
「そう云う奴もいるだろう。だが、俺はその手の事はあまり拘らない。
やりたくなりゃ適当に処理するし、商売女を買う事だってあった―――そこには、何の気持ちもない」
「最初から気持ちが無くて処理するのと、気持ちがあって抱き合うのじゃ、感じ方だって違うもんじゃねぇの?」
「生憎、そんな経験ないんでな」
「だからっっ!!俺としてみたら違うって解るって!!」
三蔵の瞳が眇められる。
「猿、いくらお前が俺を好きでも、俺がお前を好きでなくちゃ意味無いだろう。
俺とお前がやったところで、俺に取っちゃ処理となんらかわらんだろうが」
「三蔵、俺のこと好きじゃん。
もし、三蔵が俺のこと嫌いだったら……や、三蔵の性格上、嫌いじゃなくても
自分に告白した相手に、一緒に暮す事を許すわけないじゃん」
『今更、何言ってるの?』
そんな表情の悟空に、三蔵は益々追い詰められていった。
「その『好き』がお前と一緒とは限らんだろうが」
「そうかもしれないけど、一緒かもしれないじゃん」
悟空には、あと、一つだけどうしても伝えたい事があった。
「じゃ、何か?テメェは今から試してみて、其れで確かめろとでもいうのか?!」
「それでも良い!!俺、受けて立つからっっ!!」
拳を天に突き上げて男らしく言い放つ悟空に、三蔵はがっくりと項垂れた。
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