それは、どこにでも良くある会話。
そして、自分にとっては良く言われる言葉


――――貴方は誰からでも好かれそうなタイプだよね――――


そんな事は無いと笑って受け流したけれど
相手は受け流されてくれず。


「本当に、誰からも好かれます―――って感じだけど」






「貴方の事を大っっ嫌い!!って人の事はどう思うの?」








浮かべられた微笑みは、決して悪意がある訳では無く
純粋に、訊いているのが解るだけに性質が悪いと思ってしまう。








イジワルなキミ の 意地悪な質問










取敢えず、淹れ掛けたコーヒーを再開しカップに多目に注ぎ
温めたミルクを淹れたカップと一緒に持って運ぶ。
ご機嫌でミルクの入ったカップを両手で包み込み
ふぅふぅと息を吹きかけ冷ましながら口許に運ぶも

「あつっ」

当たり前だが、そんなに早く冷めてる訳も無く
あついと言いながらもちびちびとミルクを舐めている姿は可愛いモンで。

「猫舌なんだから、もう少し冷めてから飲め」
「解ってないなぁ。熱いのを『熱い』って言いながら味わうのが良いんじゃない」

そう言うと『やっぱり熱い!でも美味しい!!』とミルクのカップを放さない。

「で?」

ミルクに没頭していたかと思えば、そうでもなかったらしく

「何がだ?」
「さっきの質問に決まってるでしょ?
 貴方が何をしても気に食わない、貴方の事が大っっ嫌いって人が居たらどう思う?」

懲りずに先程の質問を繰り返される。

「そりゃ、仕方ないだろう」
「仕方ないの?」
「仕方ない。誰しも相性はあるし、仕事の相手で一方的に私情を持ち込まれては困るが
 社会人として、最低限の礼儀と節度を弁えていれば遣り過す事もできるだろう」
「ふぅん。そんなものなの?」
「そんなモンだろ。まぁ、実際は態度に出ちまう事もあるだろうし、ギクシャクはするかもしれんが」
「つまんないねぇ」


少し冷めてきたらしいミルクが、セイランの喉を通る音が聞こえる。


「つまんないか?」
「うん」


こっくりと頷くセイランは、まるで子供のようで。


「だが、そんなモンだな実際。
 嫌いだからと何食わぬ顔で足を引っ張る奴も居るだろうし、嫌いな部下を出世させない上司も居るだろう」
「うわぁ、良くありそう」
「どう頑張っても、好きになれない奴も居る」
「まぁ、確かに」
「だから、俺を嫌いな奴がいたって仕方ないし構わない」



「構わないの?結構、そう云う事を気にするタイプだと思うんだけど」
「そりゃまぁ、気にはするさ。だがな、こちらとしてはどうする事もできん」
「まぁ、そうだね」
「相手が、何しろ俺の事を嫌いだと―――理由なんか無くてもやる事為す事の全てが気に喰わんとなるとなぁ」
「ねぇ、ヴィクトール」
「ん?」
「昔、もしかしてそう云う事があったの?」

きらりと瞳が光り、わくわくとした顔でセイランが笑う。

「あ〜〜……」
「あったんだね?」
「まぁ、ちょっとな」
「ぜひ、聞かせてもらおうか」

腕を組み、うんうんと勝手に頷くセイランに苦い笑みが浮かぶが
まぁ、こんな昔の話は大した事でも無いので、仕方が無いと話始めた。

「あれは、まだ仕官学校を出て、小部隊に配属されて間もなくの事だった……」

やたらと、突っかかってくる先輩が居た。
それも、自分の所属する隊のでは無く、別の隊の所属の先輩で。
全く持って、自分には関わりが無いはずなのに――――会えば嫌な顔をされる。
先輩と言うだけで、比較的無茶が許されるのが軍だ。
何かの片付けだの、関係ない場所の草むしりだのを言いつけてきたり
自分と同年代の後輩を集めて、悪口を言われていたと後から知った。
一時、本当に自分が何かをやらかしたのかと思っていたのだが
そう思っていたのは自分だけでは無かったらしく、ヴィクトールの悪口を聞かされていた者の一人が

『先輩は、どうしてヴィクトールが嫌いなんですか?あいつ、何かやらかしたんですか?』

例えば、女を寝取られたとか
例えば、訓練で邪魔されたとか

そんな答えを予想して聞いてみたところ

『あぁ?!別に何もねぇよ!ただ、ああ云うタイプが俺は嫌いなんだよ!!』

流石にこれを聞いた者達は、ぽかんと間抜け面になったそうだ。
元々、聞かされていた悪口と云うのも

『頑張りゃイイってもんじゃねぇんだよ』
『クソ真面目に優等生面しやがって』
『ガタイのデカイ木偶の棒が』

とかの、イイ子面が気に喰わねぇと云う物から始まり
その後は創造とこじつけの混ざった物に面白おかしく脚色された下ネタなど
聞かされている者達が、正直『くだらねぇ』と、心の中で突っ込みまくりだったらしい。
しかし、その話を聞いてから、ある意味自分は吹っ切れた。
それなら、仕方が無いと。
何をしても気に喰わないならそれは仕方ないが、自分は決して同じレベルにはならないと決めた。
だから、すれ違えば普通に挨拶もした。
他の先輩へ接するように接した。
だが、益々状況は酷くなっていき
とうとう、訓練に託けて色々と直接の手出しもあった為
上の方にも知られる事となり

「俺の移動が決まった」
「え?!それっておかしくない??ヴィクトールは被害者でしょ?!」
「確かに、そうなんだがなぁ」

相手の方が、年が上だった。
それなりに今まで普通にやってきていた。

「そんなの、今までの悪事がばれなかっただけかも知れないのに?」
「そうなんだが、表面化したのは俺だけだったからなぁ」

最初は理不尽に感じたのだが、周囲があまりにも心配してくれた為
かえって、何も言えなくなってしまった。

「あの先輩はともかく、仲間には恵まれていたからな」

それは、異動した先でも同じで。
仲間に恵まれて、キツイなりにも楽しく充実した日々だった。

そして、二年も経った頃

「女王直属の部隊へ配属された」

異例の大抜擢だと褒められた。
成績には自信があったが、異動もあったし何より島流し的な事を言われていた為
誰よりも驚いたのは自分だった。
そして、その時に聞かされた自分が去った後の話。

ヴィクトールが異動させられた事で、勘違いをしたのであろう。
男は、どんどん図に乗っていった。
気に喰わない相手がいれば、くだらない苛めを仕掛け
次第に規則も破るようになり、気がつけば、言い訳も出来ない状態になっていた。

「上層部は、ずっと、様子を見ていたんだ」

―――――二人共の。

男は、突然上層部から呼ばれ――――そして、除隊を命じられる。

「最後まで、俺のせいだと叫んでいたそうだがな」

気にならないと言えば、嘘になる。
何故、そこまで自分は嫌われたのか?
それは未だに解らない。

「どこにでも、狂った奴っているんだねぇ……」
「まぁ、そうかも知れんが――――それでも、あの時はやはりショックだった」

あそこまで『大嫌いだ』と嫌悪をあらわにされた事は無かった。
こう云う事もあるのだと、仕方ないと思うしかない事を知った。
しかし、何よりもきつかったのが



『キミを見ていて、確信したよ。
 てっきり態と相手を怒らしているのかと思っていたのだが―――――』



辞令とともに知らされた真実。

男がエスカレートしていった切っ掛けは、ヴィクトールの態度。

『あの男は、苛められても普通で居られるキミにムカついたそうだよ』

苛められているのに、普通に自分に接してくる。
此方が無視しても、きちんと後輩として挨拶をしてくる。
そして、こっそりと仲間の奴らが自分から守るようにヴィクトールの周囲に居る。


「あ〜〜〜……つまり、貴方は意図せずにっていうか、ナチュラルに嫌がらせしてる状態」
「そう云うつもりは、全く無かったんだが」


泣きの一つも見せれば良かったのかもしれない。
しかし、無茶な命令にはこっそりと仲間が付き合ってくれた。
後輩がロッカーで先輩と一緒になれば、挨拶するのは当たり前の話で。
けれど、それが気に喰わないと言われてしまえばどうする事もできない。


「まぁ、正直者の勝利っていうか――――やっぱり、貴方は恵まれた人だよ」
「そうかも知れんなぁ――――そう云うお前はどうなんだ、セイラン?」


返してやれば、きょとんとした瞳になるが


「僕?僕はアレだよ―――――嫌われてなんぼってやつ?」


だって、容姿で引っ掛かってくるのは碌なのじゃないし
何より、僕が産み出す作品を見てくれれば良い。
無闇に近寄られたり、お金や権力を第一としている人間達とは関りたく無い。


「僕の言葉に怒りを覚えるなら其処までだし、何より、僕が好きでいれば良いだけでしょ」


――――――例え、嫌われていても


「ストーカーにはなるなよ」
「失礼な」

笑いながら言えば笑いながら返されて

「だが、そうかも知れんな」
「そう思う?」
「あぁ。それに誰に嫌われていても、もし、自分が好きな相手に好かれていればどうでも良い」
「同感だね」


何時の間にか飲み終わったカップを置いたセイランが
するりと自分の首に手を回して瞳を覗き込んでくる。

「僕としては、できれば、貴方は沢山の人に嫌われていて欲しいなぁ
 だって、そうすれば誰かに貴方を持ってかれはしないかと、不安になる気持ちが減るじゃない」


すりと胸元に頬を擦り付ける恋人の頭を撫でてやれば、ぴょこりと顔を上げ


「訂正!僕以外、皆が貴方を嫌いになれば良いのに」
「その言葉、そっくり返すぞ」





この一言に、花のような笑みが浮かぶ。




「あぁ、誰に嫌われていてもどうでも良いねぇ」
「――――全くだ」







自分が好きな人に、自分を好きでいて貰える。




腕の中のぬくもりは、当たり前のようで――――――奇跡的な幸せ。







                                   END