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「それにしても、最近の子供のおもちゃは凄いな」
オスカーがしみじみと呟けば、商人が気まずそうな表情を浮かべる。
「どうした?」
「あれ、子供のお遊び用ちゃいますねん」





子猫の悪戯





騒動のあった翌週の日の曜日
ふらりと立ち寄った公園で、商い中の商人と話していた時にあの薬の話になった。


「ある惑星で、子供用に開発された物が元にはなってるんですけどなぁ」


元は確かに、子供用で。
一時間くらいの間、好きな動物の耳や尻尾が生えると云うもので
小学校の学芸会の劇で使われたり
子供のごっこ遊びで使われたりと、可愛らしい物であった。

「それに、目を付けたのが」

所謂、アダルトグッズの開発会社だった。
其処が、色々と試行錯誤を重ねて出した薬
それが『子猫ちゃん』
シリーズ物で『子うさぎちゃん』『子犬ちゃん』などもある。


「不思議なんは、何処で陛下があの薬の事を知ってはったんか」


商人として、余計な詮索はせず取り寄せ販売した。
それでもやっぱり心配で


「くれぐれも、よ~ぉぉおくっっ!!説明書読んで下さい!!!!」


―――そう言って、念を押しておいたのだが


「陛下は、多分読まんだろうな。まあ、変身だけなら……」
そう言って笑うオスカーに「ちゃいますねん」と首を横に振る。



「あれは、時間が経つと媚薬としての作用も出てくるシロモンで」



所謂『遅効性の媚薬』も兼ねている為、別売りの解毒剤も売上が好調で。
「何で、解毒剤の売上が好評なんだ?」
「ソレが……こう云った物を購入するんやから、それなりにスキモノの輩で自信もあったんでしょうが」


遅効性の媚薬の効き目が凄いらしく
満足させられずに、搾り取られ屍のようになった者が続出したらしく
また、その噂を聞いて試したくなる輩も多く。

「薬と一緒に解毒剤も買う輩が多かった、と」

どこで調べたか知らないが、多分、女王は間違った情報で薬を知ったのであろう。


「いやぁ、念の為に解毒剤も取り寄せといて、ほんま良かったですわ」


腕組頷きながら語る商人に
「陛下に何か売る時は知らせてくれ」
頭を抱えてオスカーが言えば
「商人には守秘義務があるさかい」
さらっと『言えません』と返される。


「最初は猫の特性が出すぎて、解毒剤を中々飲ませられずに大変だったらしいですわ」

その後、薬にまたたびを合わせて、差し出せば素直に食べられるような物に改良され

「―――そう言えば、最近即効性の媚薬作用付きのんも新発売されましてなぁ」

ただ、そちらの媚薬の効き目は軽くて扱いやすいと揉み手で説明を始める。

顧客には特別価格なんでっせ、と肩寄せ語らう男二人。


―――オスカーは知らぬが
実は既に聖地での販売実績があるのは、商人だけが知る事実であった。





商売の時間も終わり、商人は店を片付け次回の発注票をつける。
最近は店に出す分以外に、女王陛下や守護聖達から個人的に頼まれている物も多い為、2枚別々の発注票をつけていた。
女王からは補佐官へのご機嫌取りの為、薔薇を模ったチョコを頼まれていたし
オリヴィエ様からは新色の口紅
ルヴァ様からは民俗学の本
ゼフェル様からは最新型の工具の注文があった。

粗方書き終えてから―――3枚目の発注票を手にする。

これは、万が一にも落したり盗まれたりしても大丈夫なように
誰が何を頼んだか、解らないように自分だけが解る暗号にしてある。
何名かから頼まれた、あまり外聞のよろしくない薬や道具や書物など―――そう云った物の注文書だ。

記入しながら、ふと、一つの考えが商人の頭を過る。


『あの薬、記憶が無くなったりはしない筈や』


ロザリア様は、多分、解ってて態とやらはったんやろなぁ。
女王陛下に振り回されたお返しは、しっかりしている。
あの女王の補佐をしているのだから、ただ『優秀』なだけでは無いようだ。
しかも、今回の件で解ったが


『あの二人、デキてはったんやなぁ』


あの姿で逃げるなら、自分の私邸でも良い訳で。
女王を困らせる為とは云え、あのタイプの女性が自分の想い人以外にべたべたは出来ないであろう。

―――しかも、薬を注文してきたしなぁ

あの御方は、あの姿が気に入ったらしい。

今回は、補佐官様のお蔭で高価な薬もよう売れたし
今後の事も考えて、次回来る時は補佐官様に『販売前のリサーチ』という名目で
とっておきの紅茶でもお持ちしようと発注票に書き加える。


―――聖地って所は、自分が思っていたよりも人間臭くて面白い。


『次はどんなん仕入れてきたら、喜ばはるやろ』



軽くなった荷物を持って、次の商いの為の準備に余念の無い商人であった。



                                                              END