お誕生日プレゼントは何が良いかしら?

『遠慮なく言いなさいよ』

ナミに笑顔で言われてチョッパーは考え始めて。
そのうち、困りきってしまった。

欲しい物と言われても、思い当たるものが無い。

医療に必要な物については、仲間の命に関わる為にいつだって優先的に充分補充され
必要な文献は、ナミもロビンも黙っていても揃えてくれる。
大好きな甘い物は、サンジがいつも美味しいおやつを用意してくれる。
ウソップは面白い話をしてくれるし、ルフィは遊び相手をしてくれるし、ゾロは一緒にお昼ねをしてくれる。
戦いは怖いけれど、色々な島で色々な医療や文化や食べ物を知る事もでき
毎日が楽しくて、どきどきして―――――たまに、怖かったり辛かったりもするけれど
それが当たり前に続いていて。



こんな日々が、ずっとずっと続いてくれたら嬉しいなぁ……



そんな事をチョッパーは思っているけれど




でもソレを誕生日プレゼントにお願いできない事を、チョッパーは経験から知っていた。





だから、本当に困ってしまう。
チェッパーが腕を組んでう〜ん……と唸りながら困る。
そんな姿が可愛くて、ロビンは微笑む。
欲の無い可愛い船医さんへ、ロビンは一つのアドバイスをする。

『欲しい物がなかったら、何かお願い事でも良いのよ。船医さん』

例えば、皆に何かして欲しい事とかは無いのかしら?

ロビンが頭を撫でながら、チョッパーにそう教えてくれる。




して欲しい事――――



その一言にはたと思いつき、ロビンにお礼を言ってナミの許へと走る。

「ナミ、ナミッ!!」
「あら、欲しい物決まったの?」
「うんっ!!」

きらきらとした、小動物特有の上目遣い――――トナカイは、小動物ではないけれど
こんな瞳をしたチョッパーのお願いを断れる者は少ないだろう。


ナミはチョッパーのお願いを聞いて、溜め息を吐いた。








贈り物









「全員参加ですからね―――あんた達、逃げんじゃないわよ。
 私の後にロビン、ロビンの後はサンジ君。
 残りの男達はその時、手が空いてるもので順番に交代。
 終った者は、その時手が空いてる人に必ず声を掛けること
 ――――それから『面倒臭い』なんて言ったら、借金増えるわよ」

「自分の手が空いてる人は、医務室の近くに来て置くのも良いわね」

「サンジ君は、夜の仕込みに時間が掛かるから、良かったら私達の前でも良いのよ?」

「どんな時でもレディ・ファーストは忘れませんよ?
 まぁ、実を言うと、その順番の方が時間的にも助かるんですよ。
 その日は用意の為に早起きをするチョッパーに、皆とは別に朝食の給仕をしたいし
 その後、食堂の片付けをしておきたいので」

「そう、ならゴメンね。私達お先に済まさせてもらう」

「勿論ですとも!ナミさんと、ロビンちゃんの後なんて、男冥利に尽きます。
 何と言っても、野郎ども臭い残り香なんざ鼻が曲がっちまいますから」

「見張り、適当に回せば良いか」

「何か、要る物で俺様が作れるものあるか聞いてくる」

「サンジ!その日はスペシャルな料理だよな!!」

「あっったりめぇよ。なんてったってウチの船医の誕生日&クリスマス・イブだからな」

重々しく頷く専属コックに、船長は最高の笑顔になる。

「おい――――本当に、これだけで良いのか?」

それ迄、一言も喋らなかったゾロが訊ねるとナミがロビンと顔を合わせる。
実は、それに関しては二人とも困っていたのだ。
チョッパーからあのお願いを聞くまでは、ナミもすっかり忘れていたのだ。
そして、それと同時に申し訳なく思った。

「それなのよねぇ」

「確かに、お医者さんだからコレは本当にして欲しいことでしょうけど」

「本来だったら、態々誕生日プレゼントに願うものではないでしょうね」



――――――皆の健康診断なんて



はぁ、と軽い溜め息と共に呟かれた言葉に
流石に皆の沈黙が降りる。

それは、以前からチョッパーに言われていたのだ。
念の為に、皆の健康診断をしたいと。
身長や体重を量ったり、血液を少し貰って調べたり
視覚、聴覚、嗅覚、痛覚を確認したい。
健康だと思っても病を抱えている事もあるし、検査して健康なら、それで良い。
何よりも、船医にとっては皆の健康な時の数値を把握しておく事に意味がある。
けれど、『時間ができたら』と話が流れてしまったのだ。
その時は、軽い気持ちで
『そうね、近いうちにでもやれば良いわね』
『健康診断ってなんだ?』
そんな会話があって、それっきりになってしまっていた。
無論、忙しかったというのもある。
けれど、船医であるチョッパーにはみんなの健康を守る義務と権利がある、
何より、今のこの生活と仲間を守りたいと言う気持ちがそこには有る訳で。


「これは、確かにチョッパーからのお願いだけど」

「みんなの健康の為、つまり、私達の為のモノなのよね」


チョッパーが望んだ誕生日プレゼント。
それに、間違いは無い。
けれど、それはチョッパーの為のモノでは無くて


「でも、これ以上は受け取らないでしょうね」

他に誕生日プレゼントを用意しても
望んだプレゼントは貰ったのだから受け取らないであろう。
トナカイさんは、甘えん坊に見えるけれど
本当の自分の望みを守る為に、いつだって必死で。


「なぁ、クリスマスってトナカイに乗ったじいちゃんがプレゼント置いて汲んだろ?」
「あぁ?そういやそうだったな。赤い帽子かぶってるんだっけ?」
「赤い帽子かかぶってんだ!それって、チョッパーみたいだな!
 おれ達はサンタってじいちゃんじゃなくて、赤い帽子のトナカイからクリスマスプレゼント貰うんだな!!」

ルフィの言葉にロビンとナミが微笑む。
本当に、その通りだった。

「本当ね。私達は、素敵なクリスマスプレゼントを貰えるのね」


じゃあ、そのトナカイは誰からクリスマスプレゼントを貰えば良い?


「ルフィ、あんた今、すっごい良い事言ったわ」

お手柄よ

ナミに言われてルフィは、きょとんとする。

「そうね、良い子にはクリスマスプレゼントが届くのは当たり前よね」

「じゃあ、俺様がクリスマスイブの夜に飾る巨大靴下の作製と
 その言い伝えをチョッパーに話しておこう」

ウソップが言えばナミとロビンがにっこり笑い、各自ほっとした表情になる。
後は、それぞれがプレゼントを用意して
クリスマスイブの夜に飾られた靴下に入れれば良い。
大好きな仲間が喜ぶようなプレゼントを選ぶのは、とても楽しい事だ。
寒い時期に、ほっこりと胸の中が温まる。









そして、迎えた24日

チョッパーはとても忙しく、そしてとても楽しかった。
以前から気がかりだった事ができる上に、皆が凄く協力的で。
サンジは、朝早くから起きている自分の為に、時間を早めて朝食を用意してくれるし
お昼も運んでくれた上に水分補給にと何度かお茶を持ってきてくれた。
ナミはカルテの用紙と書きやすいインクの補充をしてくれた。
ロビンはカルテを纏めて置く為の紐を、あの器用な手を使ってあっと言う間に編んでくれた上にカルテを綺麗に綴ってくれた。
ウソップは、足りない機器を作ってくれたし
ゾロは、脱線しがちなウソップやルフィが暴れたりして診断の邪魔にならないようにと見張りをしてくれた。

皆が協力してくれて、思ったより早く終って
夜は、お誕生日祝いとクリスマスイブを併せてのご馳走が溢れて

食べて
飲んで
笑って――――楽しい一日が終る。






チョッパーは覚束ない足取りで、男部屋へ帰り
自分の寝床の壁に、ウソップから貰ったチョッパーがまるっと入りそうな巨大靴下をぶら下げる。

それは、うそっぷが教えてくれた素敵な伝説。

『これは、グランドラインに伝わるとっておきのクリスマスの話だ』

グランドラインには、毎年クリスマスイブの夜に
子供は必ず大きな靴下を、自分が寝る枕元に飾る。
グランドラインには靴下屋を営むそりゃあ強面の爺さんが居てな
この爺さん、職人としての腕も良く、靴下はいつも馬鹿売れ
そして子供が好きなんだが、その強面の顔とツンデレな性格のために
どうしても子供に好かれなかったんだっていうか、歩いてるだけで子供に逃げられちまう。
けど、どうしても子供に好かれたくてな、それで色々考えた。
で、考え付いたのがやっぱり贈り物が手っ取り早くて良いだろうって考え付いてな
まぁ、物でつろうって所が問題なんだが、顔が強面だから親しい奴もいねぇし相談に乗ってくれる奴もいねぇ。
で、最初は、あった奴にいきなり渡してたんだが、貰った方は訳がわからねぇ
後から代金請求されるんじゃないかとか、余計にビクビクするわけだよ。
普通、知らないじじぃに、いきなり物なんて貰えないだろう?

それに何より、ある親が『子供教育上、良く無い』って抗議したわけさ。
そう、この抗議した親ってすっげぇ勇気あるよな?
で、このツンデレじじぃに直接話してみて
このじじぃが、物凄く寂しい奴だって知るわけよ。
友達も出来ないし子供好きなのに逃げられるし
じじぃ、金だけはあるんだけど物凄く可哀想だったんだって。
それで、この親が気の毒に思ってな相談に乗って、
色々な親達にも話してみて
じじぃが見知らぬ子供にプレゼントしても良い日を作ったんだ。
それが、グランドラインのクリスマスの始まりと言われている―――――


トナカイの世界で辛い思いをしたチョッパーに
サンタの話も赤鼻のトナカイの話も必要ない。
ウソップのほら話は、いつだって優しさに溢れていた。
だから、チョッパーはウソップの話が大好きで


――――ちなみに、子供が靴下を飾らないと
じじぃが拗ねて子供の枕元で踊り狂うとか
はたまた、じじぃが履いていた靴下を枕元に置いていかれるとの噂もある。


しみじみと語られたその口調に、チョッパーは『ひぃぃぃぃ』と悲鳴を上げた。


枕元で拗ねたじじぃに踊り狂われるのも
履いていた靴下を置いていかれるのも遠慮したいし
何より、会った事が無くても寂しがり強面ツンデレじじぃが靴下を飾る事で喜ぶなら
プレゼントが無くったって、チョッパーは嬉しかった。
だから、ウソップから渡された靴下を壁にぶら下げてから寝床に潜る
嬉しくて、楽しい誕生日の夜。

強面ツンデレじじぃも、知り合えた親達やその子供達と仲良く笑ってて欲しいな。

だって、独りは寂しいから。

そんな事を考えながら、チョッパーは眠りに付いた。








翌朝目覚めると、巨大靴下はぎっしりと詰まった贈り物の重みで床に置かれていて
チョッパーは驚き、慌て、喜び、興奮し、皆が一番見たかった笑顔で、食堂に飛び込んでいく事となる。









―――――サンタ達が待つ、食堂へ。







                                  END