自分の夢を諦めて、ここで命が終っても後悔はしない。
ルフィの命を助けられれば、必然的に他の仲間も助かる。
例え己が居なくなっても、まだ、サンジが居る―――――だから、後顧の憂いは無い。
敵に頭を下げる事も身代わりの申し出をする事も、別に怖くなかった。
ただ、必死だった。



あの時感じた重みを、一つたりとも無くす訳にはいかなかった。



そして、思わぬ提案を受ける。
ニキュニキュの実の能力によって与えられるダメージの塊を、満身創痍のこの身一つで『受入れる』事。
『受入れる』と言う事は、己はダメージの塊を受入れた上で生きていなければいけない。
死体はダメージを受けても損傷するだけで、それは受入れている訳では無い


つまりダメージを受けて己が死ねば、仲間も死ぬ事になる。


無茶は承知でも、その条件を飲むしかないのだ。
しかしその提案を受入れるのに、迷いは無く
恰も陽射しが降注ぐかの如く、容赦無く与えられるダメージの塊。


――――それにしても、おれは運が良い。


自分は身代わりにと首を差し出したのに生きる機会を得たのだから、まだ、天命は尽きていないようだ。
ダメージに耐え切って己が生きていなければ仲間が死ぬのであれば、どんな責苦も耐え切ってみせる。
耐え切れるだけの自信は、ある。




自分は、ただ、想い出してさえいれば良いのだ―――――――あのとき感じた重さを




結局最後に自分を助けるのは奴なのかと、口の端が微かに上がった。










テメェは黙って祝わせろ










すっかり忘れていた、自分の誕生日が近づいた11月のある日
誕生日に何が欲しいのかと聞かれたから
「別に無い」
そう、答えたらナミとクソコックに殴られた。
何で手前らが怒るんだと聞いたら、二人の後ろに居たチョッパーが泣きながら走っていった。
その後姿を三人で見送ってしまったのだが
くるりと振り返ったナミは、恐ろしく綺麗な笑顔で
「それじゃ、私達の好きにさせて貰うわね」
そう、言い捨てて去っていった。
クソコックにはもう一発蹴られたが、いつもの事だったし
「……和食が良い」
ポツリと放ったリクエストに、奴は気を良くして去って行った。







そして、翌日――――昼寝から覚めた夕方、俺の腿の上にナミが居た。







「「……」」

笑顔で無言の魔女ほど怖いものは無い。
大概、何かを企んで居る。
とりあえず、上半身を起すと
魔女は更に笑みを深めて、俺の腰を足で挟むように真正面に向き合い座り
肩に手を伸ばして色気たっぷりに微笑む。
丈短めのパンツを穿いてはいても、これはアレだ。




形だけ見れば正面座位―――俺の手が後ろにあれば、抱き地蔵か?




普通の男なら一発だろう。
つーか、普通にヤバイだろうコレは。
ナミは、意識して普段は自分を明るい美少女に魅せる事を徹底している。
しかし一度本気になれば、恐ろしく艶を含んだ仕種や微笑で男を惑わせる。
主に、買い物で値切りたい時や有力な情報を手に入れたい時にソレをフル活用していたが
アレが通用しないのは、ナミの本質を正しく捕らえた仲間達だけであろう。
だらだらと、蝦蟇の油の如く汗が流れ落ちるが――――動いたら、喰われそうで動けない。
普通なら、ここでエロコックが乱入しそうなモノだが今日に限ってソレも無い。



どれだけの時間が経ったのか―――――それは、恐ろしく長いような短いような沈黙と魔女の笑顔



「……なんか、ここまで反応無いのもムカつくわね」
唇が開いたかと思ったら、矢張り碌な言葉では無く
今までの空気が無かったかのように、ナミはさっさと腿の上から退く。

「―――――何なんだ、一体」

漸く、その一言だけ言えば

「この間、言ったでしょ?好きにするって。 今のが私からの誕生日プレゼントよ」
「お前と犯る気はねぇぞ」
「誰が、アンタと犯るっていった?美女をお膝に乗せれただけで充分でしょ」
「何だ、そりゃ」
「美女を乗せても勃た無い様じゃ、意味は無いかもしれないけど?普通の男なら涙流して喜ぶモンよ」

にんまりと笑って言うナミに「言ってろ」と返して立ち上がる。




「――――ねぇ、重かった?」




背中越しに掛けられた言葉に―――別に重くは無かったが―――怒らせるの覚悟で




「あぁ、重かった」




そう返してやれば

「あら、そりゃ良かったわ♪」

思わず振り返りその顔を見れば満面の笑みで――――其処に今の言葉に嘘偽りは見られず、訝しく思う。
『重い』と言われて怒りもせず満足げに笑うナミ。
天変地異の前触れか、借金を十一にでもするつもりなのか
そんな考えがぐるぐると頭の中を回り動けなくなり、ナミは笑みを浮かべたままその場を立ち去る。
おれはその後姿を、呆然としたまま見送った。










翌日、鍛錬中に腹筋をしているとロビンが

「ちょっと、良いかしら?剣士さん」

そう言うと、返事も聞かずにいきなり膝の上に座って来た。
ナミと違うのは真正面からでは無く、90度横からだった為
吐息を感じる距離に、ロビンの貌があると言う事だろう。
ロビンは独特な雰囲気を持ち、時に妖美な微笑みを浮かべ男を惑わせる。
流石に今、その微笑は無いが
それでもこれだけ近くにあれば、その美しさに興味の無い自分ですら感嘆せざるを得ない。


そして、ここでも期待していたクソコックの横槍も蹴りも無く――――


ナミの時と同様に長かったのか短かったのか解らぬ時間、動く事も儘ならず。
そして、漸くロビンがにっこりと笑い膝から立ち退く。

「――――まさかと思うが」
「えぇ、お察しの通り。これが私からの誕生日プレゼントよ」

その言葉にがっくりと肩を落としたゾロの頭上から、クスクスと笑い声が聞こえる。




「ねぇ、剣士さん―――私、重かったかしら?」




前にも聞いたような質問に、溜め息を吐きつつ返してやる。




「―――――あぁ、重かった」




たいした重さじゃないが、ここで『別に』なんぞと答えれば『重い』と返された魔女の報復が恐ろしいし
何より、実は何となくこの後の展開に想像が付いて
多分外れる事の無いその予想に、今から疲れが込上げて来る。

「ふふっ――――ありがとう、剣士さん」

そして、ナミと同じ様に笑顔で去って行くロビン。
あれか、嫌がらせ成功の礼かソレは――――







そして、思った通りの嫌がらせが続く。










3日目――――予想はしていたが、チョッパーが今度は飛び掛ってきた。

「とぉっっ!!」

と、可愛い掛け声と共に猫が獲物に飛び掛るように助走をつけてだ。
それをヒョイと捕まえて、子供を高い高いする様な形で持ち上げる。

「ゾロっ!!すっげぇ!!遠くまで見えるぞ!!」

目的を忘れて喜ぶチョッパーは、とても船医には見えぬ幼さを見せる。

「そうか、良かったな」

そう答えてやれば、手の中で身体が鰻の様にぐねる。
危ねぇ、落としそうだ。
それにしても、チョッパーは船に乗りたての頃より毛艶も手触りも良くなった。
まぁ、食事をあのクソコックが作っているのだから当たり前かもしれないが。




「チョッパー、お前、船に乗りたての頃より毛艶も良くなったし重くなったな」




ぱちぱちと、何度か瞳を瞬かせた後に目尻がこれ以上に無いくらい下がる。




「おれ、重いのかっ?!な、ゾロ??重いかっ?!」




身体が更にグニグニとぐねて喜色満面の笑みを浮かべるチョッパーを
もう一度高く持ち上げてやってから下に降ろしてやる。




「あぁ、重くなった」




頭を撫でてやりながら、答えてやれば『うへへへへへ』と照れ笑いをしながら去って行った。
―――――後から思えば、ここ迄は『まだ』良かった。










嫌がらせが始まって4日目――――ウソップが、泣いていた。

「オレだってな!!!!命は惜しいけど!!!お膝抱っこならカヤが良いに決まってんだろ!!!!!」

と、叫びながら上から落ちてきた。
ウソップに色々と言いたい事はある。
しかし、コレが誰の命令によって行われているか解るだけに同情の余地もある。
ある意味、この船で唯一の常識人であり苦労人でもあるウソップ。




つい、条件反射で刀で切り捨てて叩き落しそうになったのは否めないが




とりあえず、両腕で落ちてきたウソップを受け止めてやった。
真っ青になりガチガチと恐怖で歯を鳴らして目線も身体も恐怖で固まっているウソップ。
怒るよりも、呆れるよりも――――気の毒になった。
とりあえず床に下ろしてやれば


「よがったぁあああああ!!!生ぎでだぁぁあああーーーーーー!!!!!」


と、ただただ号泣している。
溜め息を吐きながら、念のためにチョッパーでも呼んで置こうかと踵を返せば


「ジョロ〜〜〜〜待っでぐでぇえええ〜〜〜〜」
「……何だ」




「わるぅがっだなぁああ〜〜おもがっだだろぉぉぉおおおお〜〜〜」




泣きながらの叫び声。
何とか、意味は解った――――前者三人と同じ質問だったから。
そして、今回も答えは同じ。
ウソップは痩身だが、落下速度の所為で腕に衝撃を感じる重みだったのは確かだ。




「まぁ、確かに重かったな」




そう答えてやれば

「うぅおおおおおぉおぉぉおぁああああ〜〜〜〜〜!!良がっだぁあああああ!!」

そうか、良かったな――――嫌がらせが成功して。
叫び声と言うか雄叫びと言うか奇声と言うか、ともかく騒ぎが耳に届いたのか
呼びに行くまでも無くチョッパーが走って来る。

「ウソップ?!あ、成功したんだな!!良がっだなぁあああ」
「ジョッバ〜〜〜〜オデやっだぞぉぉぉおおおおお〜〜〜!!」

何故か二人は、必死と抱きあい泣きながら喜んでいた。
もう、良い――――取敢えず放って置こうとその場を離れた。










5日目―――――フランキーがいきなり突進してきた。

取敢えず、殆ど相撲の状態で組み合った。
腕が痺れる重さと組み合った時の身体の硬さに改造人間の凄さを感じる。




「――――、重ぇ」




口から自然に出た言葉を聞いて、フランキーがニヤリと笑う。
そして、組み手を外して




「そうか、おれは重いか!!」




嬉しそうにそう言うと、上機嫌で厚い胸を更に張って高笑いしながら去っていった。
どっと疲れが出たが『コーラを買う為に、ナミに金を借りたんだろうな』とその背中を見送った。










6日目――――ルフィがゴムゴムの実の力で目一杯腕を伸ばして、反動をつけて飛んできた。

ここ迄これば、もはや意地になっている部分もある。
全身を使ってその衝撃を受け止めた、が、取敢えず船はちょっと壊れた。
踏ん張っていた為、無様に転がる事は無かったが
足は踏ん張ったまま衝撃と重みでそのまま後ろにグングン押されて、壁を突き破り漸く止まった。
避けても良かったが、避けたら間違いなく同じことを何度も繰り返す破目になるだろう。
それなら、一度で済ませた方が良いと思ったんだが
バッっと顔を上げたルフィが、目をキラキラさせて叫んだ。




「っすっげぇーーーーー!!!ゾロ!!おめぇ凄ぇっっ!!!
 今迄でいっっっっちばん!!!!腕ぇ伸ばして突撃したから、絶っっ対ぇ向うの海まで吹っ飛ぶと思った!!!!」




そうか、壁全て突き破って向うの海に落ちる予定だったのか。

考え無しに海に落ちて、おれはともかく泳げないお前はどうなるんだとか
仮にも仲間に対して『今迄で一番腕を伸ばして突撃する』のはどうなんだとか
この壁を壊した件については、テメェが直しとけよとか
色々とこの馬鹿に言ってやりたい事はあったが―――――もう、脱力感しか無い。




「な!な!!ゾロッ!!重かったか??一番、重かっただろっっ?!」




ルフィ、お前はアレだろ、絶対。




「…………確かに、一番、重かったな」




「よっしゃぁぁぁぁあああああああっっっ!!!!!」




魔女達に脅されたからじゃ無くて『面白いから』やってるだろ。
いつの間にか現れたウソップやチョッパーと、踊り跳ねながら喜び転げまわっている。
ふと気がつけば、それをニコニコと見ているクソコック。
順番からしたら、明日の誕生日当日はクソコックが攻撃してくる事になる。
まぁ、それは一寸だけ楽しみかもしれん―――――あくまで、一寸だけだが。










しかし、誕生日の当日――――待てど暮せどクソコックからの攻撃は無かった。










朝、皆と顔を合わせば口々に

「ゾロ!!誕生日おめでとう!!」

と、祝われる。
夕食は、クソコックが腕を奮ってパーティーだとか
あんたは、用意が出来るまでいつも通りだらだらしてなさいだとか
人の誕生日を己の事の様に喜んでいる仲間達に、幾許かの面映さも感じるが
おれはいつも通りの行動をしていた。

クソコックの攻撃を、今か今かと待ち侘びながら。

しかし何も起こらず、既に夕食――――希望通りの和食が並び、酒が並び、ケーキもあり
食堂は『ゾロ お誕生日おめでとう!!』の垂れ幕と
色とりどりな折り紙で作られた輪っかを繋げた物で飾られ
いつもの宴会よりも更に盛り上がり賑やかで


つまり、既に日は落ちていて
けれど、クソコックからの攻撃は無く――――
いや、考えれば当然だ。
朝からコックは、今並んでいるご馳走を作る為に誰よりも頑張っていた。
並ぶ料理はどれもこれも自分が好きな物ばかりで
筑前煮も肉じゃがも頬肉の煮込みもこっそりときのこの掻揚げも干物を焼いた物も
茶碗蒸しも松茸の土瓶蒸しもお手製がんもどきも厚揚げもおでんも味噌汁もどれもこれも味が染み
味わえば味わう程、しっかりと下拵えされていて手間と時間が掛けられているのが解る。
文句無く、美味く――――味を通してコックの気持ちも伝わってくる。
これが祝いの品なのだから、皆と違って攻撃は無いのも当たり前で。
期待していた自分が、ただ、思い違いをしていただけなのだ。
心の中で仕切り直して、心尽くしの祝いの料理を頂く。
箸で切れる肉の塊を煮たものを口に運べば、それは口に入れた途端に蕩けていく。



これで充分じゃないかと、口の端が自然と上がる。



周囲の馬鹿騒ぎも気にならない位に味に引き込まれて気がつく。
纏まりが無くなる位に沢山の種類があるのは、おれが好きな料理を出来る限り作った結果で。
今日の味付けは、全てが自分の好みに合わせられている。
いつもは、皆が好む味付けでそれは勿論、文句無く美味なのだが

『酒好きなテメェは、少し、ひねた味付けを好むよな』

そう、笑って言われた事がある。

『確かにそうだな。だから、テメェを好きなんだろうよ』

そう返して枕を投げつけられたのは、つい最近の事だ。


「なぁに、にやにやしてんだ?」

流石にテメェもこんだけ祝われりゃ嬉しいか

そう言いながら手渡された新しい酒は、自分が最も好むもので。
周囲を見れば、既に、大半の料理は平らげられ
多分、確実に自分よりも沢山食べたルフィは動けなくなっている。
良く見れば、男衆は既に殆どへべれけと化し女性二人は料理とワインを持って部屋に引き上げていく。


「サンジ君、私達、コレだけ頂いていくわね。後は、ヨロシクネ」
「コックさん、とっても美味しかったわ。ごちそうさま」


ナミとロビンは、ほんのりと上気した頬でご機嫌なまま去って行った。
他の奴らはそれにも気がつかず


「ジョロおめでと〜〜〜〜〜」
「うめぇえええ」
「知ってるか〜〜〜たんぞ〜〜〜びってのはぁ」


ひたすら、叫びながら転がり回っている。


「あぁ〜、こりゃ、こいつらはこのまま放置だな」

手早く空いた皿を転げ回っている奴らに割られない様に下げながら
これまた上機嫌でコックが笑う。

「なら、この酒に付き合え」

渡されていた酒を見せて、顎を外に向けにやりと笑えば

「仕方ねぇな、ちっと、先行ってろ」

その言葉と共にコックは立ち上がる。
扉を開けて甲板に出て、空を見上げれば星が瞬く。
確かに寒いが、酒で火照った身体には風が心地よく
折角の星ならば、もっと近くで見るのも良いかと
酒瓶を口に加えて見張り台に上がる。



「本当に、何とかは高い場所が好きだな」



呆れたように表情で、これまた器用に幾つもの皿と防寒用の毛布を持ち登って来たサンジ。
「まぁ、星が綺麗だし酒飲むには良いか」
先程までとは打って変わって静かな星空の下で
互いに注ぎあった杯を煽れば、静かに込み上げて来る感情は間違い無く『幸せ』と言うのであろう。


「なぁ、お前に伝言があるんだ」


普段の饒舌さが嘘の様に、静かに笑うサンジ。
二人きりの時だけ、この男はコックでは無くて自分の恋人になる。


「伝言?」


今は船の中で、いつだって一緒に居る、と言うか先刻までだって一緒だったのに何を伝言すると言うのだ。





「あぁ、皆から。
 
 『アンタが感じた私達の重さは、アンタが守ってくれてる生命の重さよ―――いつもありがとう』
 
 『重いって言われて、嬉しいのは初めてだったわ―――ありがとう、剣士さん』
 
 『やっぱり、お前は凄ぇぞ、ゾロ!!』
 
 『お前だって重いぞ』

 『知ってるか、人の命はこの星より重いんだ〜後は省略』

 『おれ、嬉しくて泣きそうだ!!』

 以上だ」






――――――ヤラレタ






「なぁ、重いだろ?――――お前が守ってるモンは」




けれどその中に、まだ、入ってないじゃねぇか。




「確かにな―――――けど、まだ足りねぇ」




杯を持つ手を引き寄せて、倒れこんできたサンジの身体を力一杯引き寄せる。
驚いた表情の恋人は苦笑して

「馬鹿マリモ、おれは良いんだよ。お前だって、おれの強さは知ってんだろうが」

髪を引っ張りながら、耳元で囁かれるその声はとても甘い。

「あぁ、知ってる」
「知ってんなら、おれは外しとけ」

背中に回された手
しっかりとした重み
その強さに、どれだけ安心させられているのか。

「馬鹿はテメェだ、この鳥頭。
 互いに背中預けて戦ってんだ。
 自分の背中預けた奴の重さを省く馬鹿が、何処に居る」

その背中に手を回しゆっくりと撫で、思い付いて真正面から目を合わす。




「お前は、おれの重さを良く知ってんだろうが―――――おれがお前の重さを知って、何が悪い」
 
 


にやりと揶揄すれば、意味を違える事無く理解してその貌は見る見る内に真っ赤になっていく。




「エロ、剣士!!」
「エロコックには似合いだろうが」


しれっと言い返し、更に強く抱き締める。
罵りには到底聞こえない睦言。
仕方ねぇなと綺麗微笑む恋人に耳を引っ張られ




『おれ様の重み、じっくりと味わいやがれ』




囁かれた言葉に煽られて、言葉通りに存分に味わう重さ。
それは互いが知る中で、最も負担が無く頼もしく――――そして、愛おしい。







仲間の生命の重さ
仲間の夢の重さ



そしてそれに伴う、愛おしさ




それぞれが感じているその重さを知る事によって、互いが更に強くなっていく。
『なれるだけ強くなりたい』
己の誕生日に貰った、最高の贈り物。





「お金を使わずに済んだから、特別に良い事を教えてあげる」

誕生日の翌日、ナミに聞かされて知った今回のプレゼントの発案者。

「サンジ君はね、ロロノア・ゾロに知って欲しいんだって。
 ロロノア・ゾロがどれだけ凄いモノを守っているのか。皆がどれだけゾロを好きなのか
 それで、それを知って、もう少しだけ自分自身を大切にして欲しいんだって」

アンタ、愛されてるわねぇ。

にんまりと笑ったナミは、来年もお金が掛からないと嬉しいんだけどね〜と笑っていた。
てっきり、魔女が考えたプレゼントだと思っていたおれは、完全に意表を突かれた形となる。
その事が、微妙に悔しくもあり、そして矢張り嬉しくもあった。


















血達磨になったおれを一番に見つけたのは、やっぱり奴だった。

「ここで何があった!!」

真っ青な顔して悲鳴にも似た声が響く。
その問いに返せる言葉はたった一つ

「何も、無かった」

返しておいて『そんな訳は無いだろう』と自分で自分に突っ込みそうになる。
答えを聞いて、泣きそうな表情になるサンジ。
心の中で、倒れた自身を責めているのだろうがそれは違う――――――違うんだ。
寧ろ、お前のお陰でおれはココに生きて居られるんだ。
お前に貰った誕生日プレゼントのお陰で、おれは生き延びたんだ。
それを、抱き寄せて伝えてやりたいのだけれど
流石に今は限界が来ていて、指一本動かす事も出来ず伝える事が出来ない。

あぁ、だけど

全てのダメージを受入れ切って
自分が生きているのか、一瞬、本当に解らなくなって
そんな自分を一番に見つけてくれたのが、恋人で
その恋人の泣きそうな表情を見れた事が嬉しくて
間違いなく、自分も仲間も生き延びる事が出来たのだと安心した。

血塗れで、ズタボロで、大怪我しているにも拘らず
やっとあの時感じた悔しさの、ささやかな仕返しが出来たと笑いたくなる。
敵は強く、まだ、どうなるかなんて解らない。
これだけの怪我をして、もしかしたら、絶望的な状況かも知れない。
それでも何の恐怖も感じないのは、もっと強くなれると確信が出来たから。








怪我が治って日常に戻ったら『心配損だったな』と、お前は憎まれ口を叩くのだろう。
そしたら、おれはお前に言ってやろう。









『当たり前だ。あれっくらいでおれが死ぬ訳ねぇだろうが―――――てめぇが、おれの背中を守ってんだから』











                                 END