心の中に蟠りが残る
何故かスッキリしない
アノオトコを好きか嫌いかと問われれば
嫌い
この答えに偽りは無い
ソレを正義と云うのであれば
高校生活を満喫しろとそう云われ
賑やかだが平和な日々が続く。
その中に当たり前に存在するアノオトコ
「斗貴子さん、どうしたの?眉間に皺が」
「お前らがうるさいから」
「ほっとけ、その女はいつもだろ」
「失礼な事言うなよパピヨン!!
斗貴子さんはこう見えても優しいし可愛いんだ!!」
ヒューヒューきゃあきゃあと冷やかす声も
カズキを土突き倒すのもいつもの事で。
「さっさと話しを決めろ!!」
今日の集まりは試験終わりのお祝いとの事で
週末に皆で出かける計画を立てると集まり
気がつけば菓子も飲み物をメンバーも集い
態々出かける必要があるのか?
と思わざるを得ない状況
そして、気がつけば現れる
アノオトコ
「そうそう、速く決めないとお前のトキコさんはいつまでもご機嫌斜めだ」
転がっているカズキをひょいと持ち上げながら
口元を歪めた嫌な嘲笑
「……貴様」
此方も殺気を込めて睨み返せば、更に嘲りの表情が強まるアノオトコ
例え、核鉄が無くたって頭だけの狙い撃ちであれば――――
「斗貴子さ〜〜〜ん」
横からの恐ろしい衝撃によろめきながら何とか耐える。
飛びついてきたのは、私の殺気を微塵とも感じていないらしいまひろだ。
「ごめんね!!そんなに楽しみにしてるなんてっっ
さぁ、みんな!!斗貴子さんが楽しみにしてるんだからちゃっちゃと決めるわよっ!!!」
計画が中々進まないから苛立った訳ではないと云う私の言葉は
「解ってるって」
とニコニコ返されるが――――絶対解っていない
「任せろ!!何を隠そうオレは計画を立てる達人だ!!」
立ち直ったカズキがバシッとポーズを決めて言い放てば
「任せて、私だってデートの計画を立てる(だけ)の達人よ!!」
この兄妹のこのノリには勝てない
あっという間に週末の計画が練られ
気がつけば皆で秋のハイキング
しかも保護者としていつもの大人の面々
「蝶人さんも来てくれますよね」
「う〜ん、天気が良くて気が向いたら」
「現地集合で来るならお弁当作るけど」
「オマエがか」
「任せろ!何を隠そうオレはお弁当作りの達人だ!!」
「任せて!何を隠そう私はお弁当を食べる達人よ!!」
「まぁ、寮のキッチンで作れる範囲で作れる人間が自主参加でって事で」
「ふぅ〜ん」
「蝶人さんが喜びそうなお花も咲いてますよ」
「や、主食は花の蜜じゃないから」
「そうなんですか?でも、ちょうちょさんなら、お花も好きですよね」
「嫌いじゃないな」
当たり前に、カズキもまひろも他の面々もアノオトコと普通に話している。
『いつものメンバー』
その中に
当たり前に入っている―――アノオトコ
アノオトコが帰るときも
『またな』
カズキのみならず、当たり前に皆が言う。
『蝶人さん☆またね〜』
まひろがそう云う度に
君を食べようとした巳田を、化け物にしたのはアノオトコだと『近づくな』と叫びたくなる。
『またな』
と聞く度に
ホムンクルスに喰われた犠牲者達は
その『またな』が2度と無いのだと
だけれど、言われた方は
いつかもう一度、その人とまた会う事を祈り願っているのだと
己の中で割り切れないモノが渦巻く。
『世の中は不条理だ』
好きでは無いが、火渡戦士長の言葉が頭を過る。
だけど
自分が諦めたカズキを諦めず
自分には無い知能と技術と執念で白い核鉄を作り
カズキを救ったオトコ
このオトコがホムンクルスを作らねば
カズキが一度死ぬ事も
こちらの世界に関わる事も無かった。
私が追ってきたホムンクルス―――それが蝶野が作ったものだった。
そして、蝶野がホムンクルスを作った事で、私はカズキと出会った
元々はこの市にL・X・Eが在り
その時、こちらが実際追っていたは本来そちらで
実際、別行動していた戦士の核鉄はL・X・Eが持っていた
何か、消化されず
いや、消化したはずの物が戻ってきたのか
あの、最後の戦いで終ったのに
いつまでも心の中に蟠りを残す自分がおかしいのか?
―――ソレは腹の奥底で、黒く重いモノが澱み溜まっていく
「いいねぇ」
「貴様」
普段ならば決して自分に対峙する事など無い相手が、目の前に来ている。
ハイキングと称され
連れ回され
皆がボールで遊んでいるが
休憩したいと一人木陰に来た。
その、木の上にアノオトコがアノ嘲笑を浮かべ座っている。
「その、目」
ふわりと目の前に降り立ち、羽が消えて行く。
「俺が憎いと云っている」
「それがどうした」
「そうそう、その殺気」
「だから、ソレがどうした!!貴様に殺気を出そうが貴様を憎もうが」
「女、お前の勝手だ。俺はどうも思わない―――寧ろ」
寧ろ何だと云うのだ。
だが、言葉が続く事は無く。
「貴様が蝶人になったところで
ホムンクルスを作り出し、犠牲になった人々がいた事実は変わらない」
そして、核鉄を戦団が回収したとは云え戦士の自分が
こいつを敵として認識するのも事実
「その事実に、俺は後悔などしていない
蝶になる為に全て必要な事だったからな
貴様がどう思おうが俺には関係ない―――だから、好きなだけ堂々と憎み嫌え」
自分から、憎め嫌えと来たか。
「貴様に云われるまでも無く、私はお前が大嫌いだ」
「知ってる」
「なら、何故、話しかける」
「嫌がらせだ」
ブツリと何かが切れる
「臓物をブチ撒けろ!!!!」
笑いながら攻撃をかわし、笑いながら飛び立つパピヨン
「斗貴子さ〜ん、あ、蝶人さんも!!お昼ごはんにしようよ〜〜〜」
手を振りながら走ってくるまひろ
その後ろで、カズキが手を振っている
「蝶☆ご機嫌なランチだね」
攻撃をかわしていたパピヨンが、そのままカズキの元に飛んで行く。
慌てて追いかければ、やってきたまひろに
「とぅっ」
と飛びつかれ抱きしめられる。
「斗貴子さん、蝶人さんと何を話してたの?」
「別に…」
「そう?何か楽しそうだよ。それに今日は」
蝶人さんが居ても、眉間にしわがよってないね
思わぬ一言に、動きが止まる。
抱きついたまま懐いているまひろ―――何を知っているのだろう
「ねぇ、斗貴子さんは何で蝶人さんがいると眉間に皺がよるの?」
笑顔で聞かれた質問に困る――――
だけど、答えは決まっている
「そんなの決まっている―――変態が嫌いだからだ」
「そっかー、慣れるまでは確かに変態さんて怖く感じるよね〜
あ、そう云えばちょうちょって蛹から蝶に変わるのを変体って云うんだよね
パピヨンさんは蝶人だから変体で変態なのかなぁ」
君は、何気にパピヨンを変態扱いしているな
蛹の中はどろどろになり、全く別の形になると云う
だけど、入れ物や見かけが変わったところで中身は変わらない
パピヨンだって、今は食人衝動が無くなっているが
いつ、それが戻ってくるか解らない。
戦団が今の状況を見守っているのは
いつ、何が起るか解らないから。
見張りやすいように現状を良しとしているだけで
決してパピヨンを信用している訳じゃない事も解っている。
核鉄を作り出せる知能と技術を野放しにも出来ないし
尚且つ、ソレを失くす事を『惜しい』と思っているのだろう。
そして、ソレをチラつかせ
当たり前にカズキの横に居場所を作ったパピヨン
「私がアレを嫌うのは、いけない事だろうか」
「え、別に」
ぽつりと漏らした一言に
驚くほどあっさりと答えが返ってくる。
あっけに取られた自分を見て、まひろが驚く。
「だって、皆が仲良く出来たら良いけど無理だよ
誰だって性格の合わない人がいるし
どうしても、しょうがない時もあるよぉ
生理的に受け付けないとか、その人が悪くなくても仲良くなれない時だってあるし…
友達にも『胸毛があったら受け付けられない』って云ってた子とか
逆に『男の人にすね毛が無いのが信じられない、受け付けられない』って子もいたし
斗貴子さんは、たまたま変態さんが駄目だっただけでしょ?
それって、しょうがないよねぇ」
「そうか……それは、しょうがない」
「そうでしょ。嫌いだからって苛めたりするのは絶対だめだけど
しょうがない事もあって、それって仕方ないから距離を置いたりするよ」
「…距離を置く」
「蝶人さんとお兄ちゃんが仲良いと難しいかな?
でも、お兄ちゃんの友達だから、仲良くしなきゃいけない訳じゃ無いでしょ」
「そうか」
「そうだよ……もし、どうしても駄目ならお兄ちゃんに…」
「別に、我慢できない程じゃないし…こちらも遠慮しないから」
「斗貴子さんてやっぱり良い人〜〜vv」
ごろごろと懐くまひろの頭に手をやり
「ところで、そろそろ行かないと」
「あっ!!皆待ってるね!!
行こう、斗貴子さん」
ぎゅっと手を繋がれ走り出す。
行く先には、好きな男と嫌いな男の両方が居る
それで良いのだと、あの二人は解っているのだろう。
カズキは、蝶野 攻爵の名とパピヨンの正体を忘れないと言った。
私は、蝶野 攻爵のした事を忘れない
―――だけど、パピヨンがしてくれた事も、忘れない
END