「さぁ!!思う存分構い倒し可愛がるが良い!!!」


携帯に連絡が来て
一方的に呼び出されたが、時間もあるしまぁ良いかと
パピヨンのアジトへ遊びに来てみれば

――――第一声が、ソレだった。





  仔猫が膝に座ったら





先週、寮にパピヨンが遊びに来た。
その時、机の上に置かれていた男子学生ならば必ず一冊や二冊持っているエロ本。
こんな物が良いのかと、鼻で笑われた時に

『でもさ、ちょっとこの猫耳とかバニーとか可愛いかも』

確かに、そう言った。
その時の特集の一部が、マニアの為のそう云った特集だったからで
別に他意は無かった。
パピヨンも『ふ〜ん』と言ったきりで、その話はそこで終った。



――――と、思っていた。




目の前に居る、胸を反らし両手を両足を広げ豪そうな態度の子供には猫耳がついていて。
ぱたぱたと振られる尻尾も見えて。
普段から着ている色が黒が基本なのは変わらないが、ふわふわな毛に覆われていて
顔には変わらず仮面がつけられているが、どう見ても三歳児。
恐る恐る、念の為に

「パピヨン、だよな」

そう問えば、矢張り鼻で笑い

「それ以外の何に見えるというのだ」
「猫耳と尻尾をつけた三歳児」
「フム、確かに間違ってはいないな。見た目はソレくらいの筈だ」

ぱたたんぱたたんと揺れる尻尾。
とにかく、こうなってしまっていては仕方ない

「大丈夫!何を隠そうオレは子守の達人!!」

大きく胸を叩くと

「では、期待しよう。取敢えず見上げるのが疲れた」

そう言われ、初めて身長差に気がつく。
いつも見上げていたパピヨンが自分の目線より大分下の位置にいるのは新鮮だ。
旋毛とか上げられる掌とか、かなり可愛い。
屈んで脇の下を両手で掴み
持ち上げて胸に引き寄せて抱っこをすれば
摺り寄せられる暖かな毛並み。

「これって、どの位の時間このままなんだ?」
「何があるか解らんからな。3〜4時間程度だ」

艶やかな毛並みを撫でれば、
パピヨンの喉元がぐるぐると鳴る。

「若返りの薬でも作ってたのか?」
「まぁな。実験中にできた副産物だが、量に寄って年齢は代わるらしい」
「らしい、って?」
「まだ、完璧では無いからな」

そんなんで良いのか?と、若干の疑問が残らないでもないが
ご機嫌なパピヨンを抱っこしたまま、部屋にある椅子に座る。
安定したところで、パピヨンはオレの肩に乗ったり
胸元に顔を擦り付けたり、仔猫さながらだ。

「副作用とか大丈夫なのか?」
「多分な」

……本当に大丈夫なんだろうか

自分が心配してもしょうがないので、リクエスト通りに構い倒す事とする。
まず、触る。
頭や、つやつやの毛並みを撫でたり
高い高いをしたり
頬ずりしたり
じゃれてくる子供を構い倒すのは楽しい。
頬をピンクにして
耳を震わせて
尻尾を上機嫌に揺らして
オレの身体に体当たりしてくる子供が、とても愛しく感じられ。
気がつけば床に直接座り、オレ達は全力で遊んでいた。

「喉が乾かないか?」
「そうだな。パピヨン製のその冷蔵庫の中に、色々いれてあるぞ」
「凄いな!冷蔵庫まで手作りなのか!!」

そう言えば、誇らしげに

「その奥に簡易型のキッチンとオーブンレンジもある!!」


だから、作れ。




足元をちょこまかと動く子供を気にしながらの料理は、ちょっと怖い。
中身が大人だから、知ってて態とかもしれないが

パピヨンは、オレが慌てたり焦ったりしているのを見るのが好きらしい。

子供が好きそうな物といえばハンバーグとかオムライスだろう。
早炊きをセットしてどちらにしようかと考える。
時間を考えれば、オムライスの方が良いだろう。
簡単なスープとサラダをつけて
作っている間、足元から上ろうとしている仔猫をいなし
流石に火を使っている時は危ないから、離れてもらい
出来上がったものをテーブルに並べる。

「で、何でこうなるかなぁ」

自分の膝に座る仔猫。

「椅子に座ると、テーブルの高さに届かん」

至極ごもっともで。

「でも、同じ方向に向ってると食べさせにくいんだよ」

さて、どうするか。
考えている間にも、仔猫は器用にオムライスにケチャップで『パピvヨン』と書いている。
両手を使ってケチャップをもつ姿は非常に可愛いが

「自分で食べれそう…」

だよね、と続く言葉は渡されたスプーンと口を開いて待っている仔猫に却下される。

しかもその姿が、かなり、可愛い。

「反則だ!可愛いから、食べさせたくなるじゃないか!!」

これは、もう、仕方ないのでパピヨンの方向を変える。
母親が哺乳瓶でミルクを与えるように横抱きにして片手で支え
スプーンでオムライスを口に運べば、文句も言わずに食べるパピヨン。
スープはふうふうして
サラダはよく水分を切って、口元に運ぶ。

「熱くない?」
「あぁ」
「美味しい?」
「まぁまぁだな」

食べさせながら、自分の食事も口に運び
若干気忙しなくはないが
思わずにこにこと顔をほころんでしまう程、腕の中のパピヨンが可愛くて。


「あ、ケチャップついちゃった」

パピヨンの頬に飛んだケチャップを
指でぬぐって、その指を舐めた時



ボォン!!



膝の上の子供が、19歳に戻り

「お前もついてるぞ」

そう言って、クイとオレの顎を掴むと


――――舐めた


呆然としているオレの膝から降りると


「猫耳で子供の俺を構い倒せたのだから」


それなりの、礼を貰わねばな


この後、どんな形で『礼』を払わされるのか。
って、言うか普通逆じゃないか?
確かに、可愛かったが
いやいや……

頭の中でぐるぐる考えている間に
さっさと位置を交代して
パピヨンの膝に座らされ
口元にオムライスが運ばれる。


「…」
「…」
「…」
「…」


視線を合わせたまま、無言の葛藤と脅しが続き
とうとう、根負けしたオレが口を開けると
嬉しそうにスプーンを口に入れるパピヨン。



「薬が、完成したら今度はお前にもアノ姿を体験させてやろう」



この後も、しばらく振り回される事が決定。







―――振り回される、という点では猫でも蝶でも変わらない







その、笑顔に。
肩を落として諦めるしかないオレだった。








                                                                      END