「あ、パピヨンさんだvvパピヨンさ〜ん!!」
少女の声に気がつき、振り返る蝶人・パピヨン。
そこにはいつもの三人娘と腹黒女にブチ撒け女。
その後ろには、鉄仮面女―――両手で鞄を抱き締め顔を伏せているが、こちらの動きに対して静かに臨戦態勢を取っている。
「きさま、こんな所で何をしている?」
「フン、それも解らんのか」
「お買い物ですか〜??」
「あぁ、良い商品があればな」
「ココでか」
「まぁ、ホホホホ」
「この売り場で、買い物以外にできる事があるか?」
「何か、プレゼントとか?!」
「あ〜〜vvストロベリーな物を探してるんですか??」
「いや、自分用だ」

堂々と言い放った蝶人に、少女達は固まり
周囲で写真を撮っていた者達は、聞かなかった事にした。








それは、秘密







「全く、非常識だとは思ったが、化粧品に興味があると」
「俺にしては、化粧品にまったく興味が無さそうなキサマがいる事に驚いたがな
 ……ふむ、男ができると変わるものだな」
「キサマ!!!」
真っ赤になって飛び掛らんばかりの斗貴子だったが、
まひろが後ろから、ちーちんに右腕、さーちゃんに左腕を押さえられ阻止される。
しかも、三人とも目が『にやぁ』としている。
「うふふ、斗貴子さんvv可愛い〜〜〜〜vvしかも、むにむにぃvv」
まひろが嬉しそうに、力を込めて抱きしめる。
「そう、女の子は恋をしたらストロベリるの!!大好きな彼の為に!!」
「お肌のお手入れしたり!」
「髪の毛のお手入れしたり!」
「爪とか、唇とか、細かいところのお洒落もねvv」
三人娘は、まるでミュージカルの様にテンポ良く喋る。
その様子を『微笑ましいこと』と笑顔で見守る桜花。
「斗貴子さんは、すべすべで気持ち良いけど
 やっぱり、女の子としては更に綺麗になりたいよね」
「別に!!そんな訳では無いしこの買い物も、どうしても付いて来て欲しいと!!」
「解ってるからぁvvもう、斗貴子さんてば可愛いvvお兄ちゃんに、あげたくない〜〜!!」
ごろごろと喉を鳴らさんばかりに懐かれ
更にドサクサに紛れて、さり気なく胸をむにむにと揉んでいるまひろ。
「あらあら、売り場であまり騒いでは駄目よ?」
充分楽しんだ後に、優しく諭す桜花に『『『はぁい』』』と返事をして斗貴子を放す。
「ね、パピヨンさんはここに良く来るんですか?」
「あぁ。銀成市では、ここが一番商品が揃ってるからね」
「そうなんですかぁ」
「それに、ここは新製品の入荷も早いんだ。
 全国販売する前に、先行で新商品のプロモーションをする事も多いしね」
「へ〜、詳しいですね」
「男性化粧品も奥の方にあるのに、何故、女性化粧品なんだ」
「え、男性用のお化粧品なんてあるの??」
「そりゃ、男性用も見るけどね。女性用は種類も豊富で色々面白い」
「そうなんですか?」
「そう言われれば、男性化粧品てどんなのがあるんですか?」
「まぁ、今は増えて香水やシェイビング、化粧水なんかの他にも
 乳液、油をとるクリーム、男性用コンシーラーとかね」
「男性用のコンシーラーなんてあるんですかぁ」
「女性用は何に使うんですか??」
「う〜ん、色々とね」
「え〜〜」
「はは、で、君達は何を見に?」
「えへへ、色々とですぅvv」
「できれば、良い洗顔石鹸かなぁ」
「あ、私は化粧水とアロマオイルとか見れたら」
「良かったら、パピヨンさんご一緒しません?」
「ン〜、そうだねぇ」
「あ、ぜひ!!コスメ詳しそうだし!!」
「お時間あれば、ぜひ」
まひろ、さーちゃん、ちーちんが、出先であった学校の先輩を誘うような気軽さで誘い
「そうだな、今日は時間もあるし」
パピヨンも気軽にそれに応じた後、顔を上げれば苦虫を潰したような顔の斗貴子を目を合わせ
『……ニヤァ』と嗤う。
瞬間沸騰宜しく真っ赤になりとびだそうとするのを、今度は両脇から桜花と毒島が押さえる。
「ほらほら、あまり騒いじゃだめよ」
「まったく、マナーの無い女だ」
呆れたように言い放つパピヨンに
「その格好のお前が言うな!!!」
と怒鳴り返すも、既にパピヨンは少女達に囲まれて商品の物色に入っている。
「まぁまぁ、落ち着きましょう?津村さん」
「何も無いとは思いますが、パピヨンが何故こんな所にいるのかを探っておくのも必要かと」
落ち着いた毒島の声に、斗貴子の顔は戦士のモノに変わる。
「そうね、私もパピヨンが何も無しにこんな所に来る男では無いと思うわ」
ね?と首を傾げ斗貴子を覗き込む桜花と毒島。
二人が手を放しても、斗貴子が飛び掛る事は無く。
三人の少女に囲まれたパピヨンの背後に付いた。



「これ、良い匂い〜〜vv」
「バラのボディオイル?あ、本当に良い香りだね」
「この化粧水、どうかなぁ?」
「それはしっとりタイプとさっぱりタイプの2種、そこに、試供品が置いてある。」
「あ、本当だvv」
「オーガニック・ソープかぁ」
「それは、クレンジングも兼ねている。よく泡立てて、泡を肌の上で転がすように洗顔すると良い」
「え、そうなんですか?」
「ごしごしこするのは、気持ちは良いが実際は肌に負担を掛けるだけだ」
「色付きのリップ、可愛いかなぁ……」
「色つきリップも良いが、若さの特権だ。今は体調管理をしっかりして、自然な唇の色のままが良いだろう。
 どうせ、年をとれば嫌と云うほど口紅を点す事になるのだから。
 健康的な唇の上に、保湿だけのリップだけでも良いし、その上に、少し艶やかに濡れたように見えるグロスだけと云うのはどうだ?」
「これ、何??接着剤??何に使うの??」
「あぁ、それはコレ用だ」
差し出された、付け睫毛。
「ゲジゲジみた〜い」
「見た目は確かにな。コレを自分の目に合わせた長さに切って、この接着剤を付けて睫毛の1mm上に乗せるように貼るんだ」
「凄い!!」
「でも、接着剤なんて怖くない?」
「昔は汗でも取れる事があったし、今も付け方が悪いと取れたりずれたりする事があるが
 最近のモノは引っ張っても中々取れない」
「え?じゃあ、お化粧落とす時はどうするの??」
「端の方からゆっくり外すのだが、ソレは肌の負担を考えるとどうかと思うな。
 目の周りの肌は柔らかいから、付け睫毛用のクレンジングがあるのでソレを使うと良い」
「でも、接着剤かぁ……凄いね」
「今は、手術なんかに使われるのもあるからねぇ。
 コレの色も、最初は白だけだった。その後、透明色と黒色が増えたが、黒は上手く付けられれば良いが失敗も多い」
「へ〜〜、凄い!!」
「付け睫毛とか、マスカラは君達はまだ必要無いだろう」
「でも、睫毛が長いのって良いよねvv桜花先輩なんてほんとに羨ましい」
「あら、ありがとう」
「ならば、睫毛の美容液で元の睫毛を強くしておく事だな。
 ビューラーも、やはり睫毛を痛める原因だし睫毛パーマも良く考えた方が良いだろう。
 補修・保湿等は普段から大切だが、ア○○○セのこれは、睫毛が少しだが長くなったと云う話も聞く
 何より、他のメーカーに比べてベタつかないから使いやすい」
「そうなんですか??」
「寝る前に付けるんだが、今、ノーメークなら、保護に昼間も付けられるだろう。
 塗った直後は、どうしても、アイメークが滲みやすくなるからな。
 元が良ければ、そんなに濃くメークする必要な無い。
 睫毛を綺麗に見せたいなら、元の睫毛の美容に
 肌を綺麗に見せたいなら、元の肌の美容に気を使え。
 汚い肌を上から塗って隠すのは、結局更に肌に負担をかける事になる。
 だから、食べる事や睡眠に毎日少しずつ気を使い、肌や毛の質を改善した方が良い。
 マスカラの細かい粉が目の中に入る負担や
 ファンデーションが肌にどれだけ負担を掛けるのか、意外と知られてないからね。
 今は、日焼けに気をつけたり、肌や毛なんかに栄養を付けてやる方が大切だろう」
「ほぇ〜〜〜……パピヨンさん、凄い」

気がつけば、周囲が女性陣に埋め尽くされ
写メを取る音は無く、皆がパピヨンの話に耳を傾けている。

「既に何人かは、パピヨンが話していた商品を手に取っていますね」
こっそりと毒島が斗貴子に囁く。そして、ふと、桜花を見ると手には睫毛の美容液が。
「……」
「貴女と、毒島さんの分も合ってよ?」
「あの、千歳さんの……」
「勿論確保してあるわ」
「ありがとうございます」


「だが、気をつけろよ。
 アレルギーまで行かなくても、人には合う合わないがある。
 たとえ、武藤 まひろにはその商品が合っても
 全員に合うわけじゃない。効果についてもそうだ。
 安いものでも、自分に合えば効果がでるし
 逆に高いものでも、自分に合わなければ効果は出ない」


ふんふんと、真剣に頷く少女達。
さらに、偶然通りすがり売り場に足止めした女性達も頷く。
その後もパピヨンは、商品を見て廻り
更に、自分達以外の人も増え
パピヨンの口から出た商品は、幾つか売り切れる事態となる。










「あ〜〜〜、楽しかった!!パピヨンさん、ありがとうございました!!」

少女達が口々にパピヨンに礼を言う。
皆、いつもよりもじっくり商品を手にとって品定めをし
ついでに、試供品も大量ゲット
さらに、思い思いに選び抜いた商品を購入した。
手に手に袋を持ち――――結局持っていないのは、斗貴子だけで。
いつものお店で軽食を取っていた。


「今日は、本当に勉強になりました」
いつもは、一歩引いてしまうために試供品を貰ったり試したりできない千里は
今日はしっかり試したり、パピヨンに質問したりと今までに無く積極的に商品と向き合っていた。
買ったのは、基礎的な物ばかりだが早く帰って試したかった。
「ちーちんてば、恋する乙女みたいvv」
まひろがにこにこと言えば、千里は真っ赤になる。


「あ、ここに居た」
「先輩、お疲れ様です」
「よ!パッピ〜」
「こんにちは」
「盛り上がってるな」
「フン」


カズキ・剛太・エンゼル御前・千歳・ブラボー・火渡が、パピヨンセットを持ってやってくる。
買い物が終った後、まひろがカズキにメールしてカズキを呼んだのだが
寮に居た者達+何故か千歳とエンゼル御前まで居る。
エンゼル御前を見ても『蝶人・パピヨンのマスコットキャラもしくは小さな蝶の妖精さん』という、
本人にしてみたら、微妙な勘違いをされている為、誰も騒がない。
寧ろ、撫でられたりお裾分けをもらえたり、奢ってもらえたりとご機嫌である。
千歳はブラボー・火渡・毒島の知り合いとして、最近、良く寮に来ているため既に顔なじみである。

「うわぁ、皆たくさん買い物したんだね」
置いてある、袋を見てカズキが声を上げる。
「そうなの!!お兄ちゃん、パピヨンさんて凄いんだよ!!
 お化粧品に凄く詳しくて、今日は凄く楽しかったの!!」
満面の笑みでまひろが言うと
「けっ!カマくせぇ」
火渡が毒づく。
「フン、つまらん男だ」
パピヨンがあからさまに侮蔑したように言い放てば、「あぁ?!」とヤクザの如く凄む火渡。
「化粧品の開発を、全て女性だけでしているとでも思っているのか?貴様は。
 女性の美に対する努力と執念は、賞賛に値するもので
 その努力の結晶である化粧品に対して興味を持つ事を『カマくせぇ』等とは笑止。
 キサマは、例え恋人が化粧を変えたり香水を変えたりしても気が付けん無粋な男なのだろうな」
フフン、と嗤うパピヨンと火渡の会話を聞いて毒島が小さく俯く。
千歳はくすりと笑いながらも、意識はしっかり桜花から渡された美容液に夢中だ。
千里はちらちらと剛太に目をやるも、剛太は御前様を構っていて気がつかない。
「しかし、一番購入しているのはお前なんだな」
何の気無しに言われたカズキの一言に、皆の視線がパピヨンの荷物に集中する。
「け、化け物のくせに肌の手入れでもしてやがんのか」
「女性用を使うの?」
「そう言えば、お会計の時にはそんなに商品無かったですよね」
沙織がそう言えば、少女達が頷く。
「あぁ、既に何点かは、取り寄せてあったからね」
「そうだったんですか」
「うわぁ、どんなの買ったのか気になる〜〜」
「プレゼントだったりしてvv」
「「「きゃあぁあvv」」」
少女達の姦しさに火渡との一触即発の空気は払拭され
比較的和やかにお茶の時間は過ぎていった。


お茶も終わり、それぞれが帰路に着く事となり
お店の外で寮へ帰る者達とそうで無い者達と別れる。
「今日は、ありがとうございました!!」
「また、ご一緒してくださいね!!」
少女達が頭を下げてパピヨンにお礼を言えば、まんざらでもなくパピヨンが頷く。
「おい、ブチ撒け女」
ぐったりとなり、不機嫌な表情の斗貴子にパピヨンは声を掛ける。
「なんだ」
「キサマ、日焼け止めと紫外線対策してなかっただろう」
当たり前だが、今まで気にしたことなど無かった。
「それがどうした」
「夏だけでは無く、秋も冬も紫外線はキツイ。暖房で思っているより肌も乾く」
「だから、それが何だというのだ!」
斗貴子の怒声に「やれやれ」と溜め息を吐くと
「この夏も、殆ど肌の手入れをせず炎天下を走り回り未だ何のケアもしてないんだろ
 若いうちの日焼けは年を取ってから、染みやくすみの原因になる

 ――――10年後、泣きたくなければこれでも使ってケアしとけ」
「余計なお世話だ――――!!!!」


殴りかかろうとしたものの、カズキに止められ。
パピヨンが投げて寄越した紙袋は、落ちる前にまひろがキャッチ。
見事な兄妹の連係プレイに周囲で拍手が上がる。

「お前、今日は寮に寄らないのか?」

斗貴子を後ろから羽交い絞めしているカズキが、のほほんと訊ねると
「あぁ、今日は今から帰ってやる事があるからな」
「そっか、じゃ、またな!!」
「パピヨンさん、おやすみなさい〜」

そう云って手を振りながら、寮へ帰っていく少年少女たちと火渡。
残ったのは、寮生では無い桜花と御前さま
それに、女性の夜歩きは危ないと、千歳と桜花を送っていく事になったブラボー
つまり、錬金戦団の者達だけである。

「それで、そのお荷物は月へお送りするのかしら?」

何でも無い事のように、桜花が口にする。
それを聞いた千歳とブラボーがパピヨンを見る。

「あぁ、お前達が来て丁度良かった」

手荷物の半分をブラボーに差し出す。
慌てて受け取ると結構な重さだ。

「月のホムンクルスへの補給物資に中に入れておけ。
 花房はそろそろ化粧品が切れる頃だし、ヴィクトリアも、あれば適当に遣うだろう。
 お前ら、戦団の荷物のリストには入ってなかったからな」
月に行ったホムンクルスへは、戦団から物質の補給を定期的にしている。
肉などの食料品以外にも、飽きの無いように、希望があった雑誌やお菓子なども送ってはいたが
「お化粧品、少しは入れておく予定だったけど」
「新商品や、花房の好きな物は無かったからな。」
まぁ、月で使えるかは別だが
「それでも、女性の美への固執は凄いからな」

「でも、そちら半分は私物なんですのね」

パピヨンの手元には、まだ、幾つもの紙袋がある。
「あぁ、こちらは研究用でね」
さらりと返される言葉を千歳は聞き咎める。
「それを、何の研究に使うのかしら?」
「様々な錬金術の研究をしているとな、思わぬ副産物も産まれる。
 まぁ、鉛を金に変えたり、不老不死を求める研究で在るわけで」
にやり、と嗤うパピヨンに、千歳が今までになく喰い付く。
「お化粧品に使える物も、できたと云う訳なのかしら?!」
「まぁ、偶然、化粧品に使える成分が出来たみたいでね。
 市販の化粧品と比べて効き目とかを比較したりしてるわけさ。
 努力する者には、賞賛と手助けをする蝶の妖精としては
 女性の『いつまでも美しくいたい』『少しでも、綺麗に見せたい』と云う努力は賞賛に値するから。
 さて、そろそろ行くか。じゃ、送るのは頼んだよ」

荷物の袋を持ち、美しく羽ばたくパピヨン。
御前様は、ちらりと桜花とアイコンタクトを取るとパピヨンに付いて行った。
その後姿を真剣な眼差しで見つめる千歳に、ブラボーは暫く声を掛けられなかった。








「パッピ〜〜!!荷物一個持ってやろうか?」
御前様が声を掛けると、ぽんっと紙袋が投げられる。
「わわっ!!もうちょっと、優しく投げろよ!!」
落としたら、大惨事になりかねない高度だ。
冷や汗を掻きつつ袋をしっかり抱きしめる。
「なぁなぁ、パッピー」
「何だ」
「その、仮面ってもしかして付け睫毛用の接着剤でついてるのか??」
「さぁてね」
「ちぇ、けちけちしなくても良いのに!」
「五月蝿いよ、お前」
「な、化粧品、余ったら処分してやる」
「『下さい』の間違いだろう」
「だって、いる分だけ使ったら後は不要だろ?」
「解った解った、いらないのは除けて置いてやるから桜花にでも処分させとけ」
「おう!!さっすが!パピヨンvv」

ちゃっかりした桜花は、しっかりと化粧品をゲット。
『良い仕事した〜〜vv』とご機嫌でくるくる回る御前様を見て、パピヨンは口の端を上げる。



これで、市販化する前の化粧品を実験しやすくなるな。



桜花だけでなく、千歳や毒島―――それにブチ撒け女も使えるだろう。
これも、ギブ&テイク。
お互いに悪くない話だ。






自分が化粧品に興味を持ったのは偶然。
パピヨンマスクを付ける際に、ある程度の衝撃や鷲尾の背中に乗って空を飛ぶ時に
どうやって落ちないようにするかを、考えていた時だった。
ゴムで耳にかけるのは美しくない上に、耳の後ろが痛くなるしマスクがずれやすいしで却下。
アロン○ルファは、付けっぱなしなら良いかもしれないが、マスクを取る度に皮膚を傷めるどころの騒ぎではない。
まだ、人間だったあの頃に、接着剤で仮面をつけるのはどう考えても無謀だった


そして、偶然薬局で見つけた『付け睫毛用の接着剤』


付け睫毛が流行り始めた為、薬局のレジ前や店内の目立つ所に置かれていたのに目がついた。
ある程度肌にも優しい上に、意外と接着力が強い。
無論、幾つも購入し成分を調べたりと、自分なりに改良したりして納得のゆく物を作ったが
完成するまでは、かなり、世話になった。
そして、その時に知った化粧の歴史と美への努力。
共感できるモノもあり、研究や実験中に産まれた偶然の副産物が化粧品として使える事に気がついた。
本来の目的とは別に、こういった事があるのも面白い。
どうせ永い時間を過ごすのだ。資金があるに越した事は無い。
会社の経営やら、税金対策やらの面倒な事は、自分を監視したがっている錬金戦団に任せれば良いのだから。







後年、初代イメージキャラクターを蝶人・パピヨンが勤める
『パピヨン』と云う名の化粧品ブランドが銀成市で販売され、その効果と種類の豊富さで一気に世界へと広まる。
その会社の母体が錬金戦団となるのは、今はまだ、誰も知る由は無かった。








「ねーねー斗貴子さん!!これ、凄いよ!!」
寮に帰ったまひろが、パピヨンが投げた袋を開けて斗貴子に迫っていた。
「私はいらん!!捨てるか、キミが使えばよい!!」
「駄目だよ〜〜だって、パピヨンさんは斗貴子さんにくれたんだもん。
 それに、これ、凄く高いんだよ!!」
その袋には、美白&染みにならない様に飲むタイプから、顔に塗る美白用品
それに、紫外線対策用の物まで揃っていた。
「斗貴子さん、色白で確かに染みとか出来たら目立っちゃうし
 私は、たまに借りるだけで良いから〜〜」
お風呂上りに、使う使わないで揉めている、まひろと斗貴子。
結局、意地になった斗貴子は塗ろうとしなかったが
まひろが胸に顔を埋めて飛びついて押し倒している好きに
さーちゃんとちーちんが斗貴子の顔に塗ると云う
カズキにとっては、非常に羨ましい光景が毎夜繰り広げられる事になったのである。





「うふふvvパピヨンさんのお陰で、毎晩スベスベむにむに〜〜〜vv」




斗貴子が諦めて、自分で塗るようになるまで
まひろは存分に斗貴子の肌を堪能し、ご機嫌な日々が続いたのである。




                                   END