羨ましいと思った。
それは、漠然とした思いだったけど。
感情と体温
「それは、君のクセか?」
「「え?」」
斗貴子がそう問えば、きょとんとした表情のカズキとまひろ。
兄に抱き締められ、妹の頭は柔らかく撫でられている。
「ここの兄妹」
「スキンシップ激しいから」
慣れている面々が、さらりと受け流すと「そうか」と斗貴子は頷く。
「えっへっへvvとうっ!!」
ふにゃあんと顔を崩したまひろが、斗貴子に飛びつき
驚く斗貴子を抱き締めて頭を撫でれば
真っ赤な顔をしてもがくも、手荒には引き剥がせず――――
「斗貴子さん、かっわいぃ〜〜〜」
「コラ!やめないか?!」
ある意味乙女でストロベリーな展開となり、一部の者達を喜ばせた。
お兄ちゃんだから、妹を守ってね――――
それは、幼い日に親に言われた言葉。
「ふむ、下が女だとそうなるのか」
「あ〜〜お前は、弟だったよね」
夜中の散歩だと拉致されて
学校の屋上で見る桜は、風でひらひらと花びらが舞う。
「学校の夜桜を屋上から見たのは、初めてだなぁ」
「なかなか、綺麗なモノだろう」
ほら、とパピヨンから差し出される有名和菓子店の花見団子―――温かなお茶の缶付き。
それが何処から出されたかは、気にしない。してはいけない。
一応、ビニールの袋から出てきたし。
屋上にあるタンクの上に、二人並んで座っての夜桜見物。
眼下に広がる夜桜は、とても、静かで。
「お前は、いつも守ってばかりだな―――武藤」
パピヨンから
ホムンクルスから
L・X・Eから
ヴィクターから
「そうかもな」
笑えば、そんなカズキを面白くなさそうにパピヨンは一瞥する。
花見団子をもきゅもきゅと食べ、お茶を飲み、眼下の桜を楽しむ。
夜の学校は、いつもの騒がしさとはまるで別世界で
――――綺麗で、とても寂しい世界。
「綺麗だけど、寂しいな」
「フン、お前にもそんな情緒があったのか」
「失礼だな」
「だが、お前と通じるモノはあるな」
「は?」
「綺麗な光を放ち、全てのモノを照らす」
それは、朝日にも似た
美しく清冽な光
「けれど、だからこそ、同じ場所には居られない――――寂しいな」
強き者は、いつしか周囲から一段だけ高い位置へと進む。
それは、仕方の無いことだけれども
「お前だってそうじゃん」
誰よりも強い意志を持ち、その知能と力で孤独となった男。
「――――たまには、良かろう」
それは、傷の舐め合いとか同情とかでは無くて
パピヨンの手に抱き寄せられて
本の少し寒いと思っていたのが嘘の様に、身体が熱くなる。
あまりの事に、声も出せずに硬直していれば
「正面から抱き締める事はあっても、抱き締められる事は無いだろう」
そして、静かに撫でられる頭。
人の命奪った筈のその掌は、恐ろしく優しくて
胸に顔を埋めてじっとしていれば、自然と身体の力が抜けていく。
それは、泣きたくなるほどの安心感。
「オレはお前を守ったりはしない―――」
囁かれる言葉に、嘘は無いけれど
一度だけ
誰か、オレ守ってくれと願ったこの場所で
本当の意味での、守られる事を思い知らされる。
「なぁ」
「何だ」
「オレも、抱き締めてやろうか?」
強く、孤独なオマエを
「フン――――そう言う事は、聞かずにタイミングを見てやるものだ」
馬鹿な奴だと呟いて
さらに力を込められぎゅっと、抱き締められる。
「俺を抱き締める時は、後ろから抱き締めろよ?」
―――――俺は、いつでも貴様の前に居るのだから
END