「貴様、自分は誰にでも好かれるタイプだと思っているだろう」
「え?そりゃ、あんまり嫌われていないとは思うけど……」
「では、お前の事が大っっ嫌いだ。
息をしているのも許せない!と、言う奴がいたらどうする?」
「それって、再殺部隊の人たち?」
「確かにヴィクター化してれば、息をするのも許せんだろう――――ってか、死ぬからな。
そうでは無くて―――――武藤 カズキを、だ」
意地悪な君 イジワルな質問
始まりは他愛も無い話。
(あぁ、そうだ)
寒い季節だけど、色々、イベントがあるって話から始まった。
寒いけど、イベントがあるから楽しい季節だと――――
(何で、こんな質問になったるんだろ?)
カズキは、腕を組み考え込む。
さて、一体何が蝶野にこの質問をさせたのか?
「う〜〜ん……合う合わないってあるから、オレの事が大嫌いって人はいるだろうなぁ」
今、思い当たるとしたら再殺部隊の熱苦しい隊長とか。
「でも、仕方ないかなぁ」
「ホゥ……『シカタナイ』で済むのか」
「や、だってさぁ普通にだよ?ふっっつ〜〜〜〜に!!考えても
全人類から好かれるって、無理じゃん?」
「フム」
「自分が好きな人から嫌われたら、凄くショックだし、何とかしようと努力するけど
それだって、上手くいかずに嫌われる事だってあるだろうし」
「あるだろうな」
「自分が気が付いてないだけで、今だって、誰かに嫌われてるかもしれない」
「まぁ、存在を無視されているよりは、負の感情でも向けられていた方がマシな時もあるが」
「あ〜〜……そうかも。それに、嫌われてても厭味とか嫌がらせとかされなきゃ別に良いかと思うんだよね」
「なるほど」
「もし、何かされたらソレはオレも何とかするし」
別に、黙って耐える義理は無いし
「そうだな」
「それに――――もし、オレが誰からも嫌われず皆から好かれてたらさ
アイドルとかスターとかになってて『今』ココに居なかったかも知れ無いじゃん」
――――そしたら、お前とも会ってなかったかもしれないし
「だから、もしかしたら今だって誰かに嫌われてたり――――本当は、避けられてたりしてるかもしれないけど
それは仕方ないし、今のオレが好きな人たちには少なくとも嫌われて無いから良いんだ」
「フン――――偽善者め」
呆れた表情で、蝶野が微笑う。
「蝶野は、オレみたいなタイプ嫌いだろ?」
「良く解ってるじゃないか――――確かに、お前みたいな『タイプ』は大っ嫌いだ」
「うん、解ってる」
お前みたいな『タイプ』は嫌いだ
だけど
「まぁ、『お前』は嫌いじゃないがな」
ひねくれてる言い方だけど
「大丈夫、オレもお前は嫌いじゃない」
真似て言い返せば、おでこを弾かれる。
「なぁ、オレが全人類から愛されてなくて良かっただろ」
「まったくだ。お前を嫌う人間達に、感謝をさせて貰おうか」
今でさえ、ライバルが多いのだから―――――これ以上、関係者を増やしてくれるなよ?
こっそりと呟かれた蝶野の言葉は、寒風に紛れる前にカズキの耳に届き
真冬にも関らず、恐ろしいほど体温を上昇させる。
「顔が赤いようだが?」
解っていて、得意げに聞いてくる彼に若干のむかつきは感じるが。
「別にっ!そろそろ冷えてきたから、どっかお店に入るか」
「そうだな、折角だからケーキの美味い店が良い」
「オレ、あんまり知らないなぁ……そう云う店」
「フ……お前には期待して無いから安心しろ。
この近くに、チョコレートケーキの美味しい店があってな」
「へぇ……蝶野が美味しいって言うのは、ハズレが無いよね」
「すぐ近くだから行くぞ」
案内されたお店のザッハ・トルテは、お店の看板メニューでもあり確かに美味しく。
「なぁ、別にオレ、自分で出すよ?」
「黙ってろ」
拒否された支払いと首を傾げるカズキ。
今までも『土産』であればともかく、お店での飲食代などは基本自分の分は自分だったのに
―――――何故、今回は蝶野一人で支払っているのか。
「3月に、一度奢れ」
いつもの店で構わんから
付け足しの様にそう言われて
「??うん、解った。じゃ、次回はオレ持ちな」
「『次回』じゃ無くて『3月』な」
「????うん、3月が良いんだな。解った」
頭の中が?マークで一杯になったのが解ったのか
蝶野は『鈍い奴』とカズキを揶揄う。
2月のチョコレートと3月の関係
貰った本人が気が付くまでには時間の掛かる
捻くれ者からの、当日を避けたささやかな愛の告白
END