最近巷で流行りのサイト

『蝶人☆パピヨン公認のFANサイト』

特集が組まれるテレビやニュースの予告
FANからの、目撃情報や投稿写真の掲載
サイトからは、パピヨンのブログがリンクされており、こちらも気儘な更新がされている。
ロッテリやの蝶人キャンペーンのお知らせから
フィギュアのキャラクターについての解説
果てはお得なクーポンまであり
正直、かなりの大反響


そのサイトの名は―――








 秘密の花園









「凄いなぁ……」
思わず漏れた呟きに、斗貴子さんが同意する。
「色々な意味で凄いな―――この名前と云い画面と云い、センスの悪さには脱帽物だ」
「そう?結構オシャレだと思うけど」
「カズキ、君のオシャレは間違っている」



学校にあるパソコンからアドレスにアクセスしてみれば
真っ黒な画面に、小さな光がクルクルと回りながら次第に大きくなり
それが、画面一杯のパピヨンマスクになる。
そのマスクをクリックすると開く―――秘密の花園




「パピヨンは、暇なのか」


溜め息混じりに斗貴子さんが呟く。


最近話題のサイトを取り扱った雑誌の特集
それを持ってきてくれたのは六舛で

『パピヨンのサイトも載っている』

そう云って差し出された女性誌


―――どうしてそんな雑誌まで持っているのか、誰も突っ込めず


特集を読んでいくと
『蝶☆ファン』と云うハンドルネームの
『自称パピヨンのFAN』と云う人が管理をしているサイトで
画面のデザインもこまめに変えられていて
ある時は、背景が黒一色
画面右側に決めポーズのパピヨン
アイコンは蝶で比較的シンプルだったり
ある時は、背景がデフォルメされた町の画面で
フィギュアのキャラクターがアイコン化され
町の色々な所に配置されていたり
ある時は、一寸メルヘンチックに
ピンクの背景にアイコンがお花で
マウスポイントがパピヨンだったりしているとの事。

元々は、FANによる目撃情報の交換などが始まりで
掲示板に写真が投稿されたりして盛り上がり
運が良ければ、コメントにパピヨンがレスしてくれる迄になった。



『馬鹿馬鹿しい』と、斗貴子さんは呆れ顔で溜め息をつく。


「でも、楽しそうだ」


どのページを開けても蝶が舞い
パピヨンのファンの盛り上がりは凄い。


掲示板には、目撃情報やお互いの情報交換
果ては
『ぜひ、私の学校の文化祭に来て下さい!!』
とか
『好みの女性のタイプを教えてください!!』
とか
『好みの男性のタイプを教えてください!!』
とか、本人宛の質問も多い。


「人気者だな」
「まぁな」


「「パピヨン!!」」


驚いて振り向けば、胸を張って嬉しそうなパピヨン


「貴様!!いつの間に」


背後を取られた事への怒りで、八つ当たり気味に睨み付ける斗貴子さんに舌を出すパピヨン
絶対にパピヨンは、斗貴子さんを怒らせて楽しんでいる。

「相変わらず、うるさい女だ」
「お前のように、自分のFANを自演するような輩よりマシだ!!」

斗貴子さんは、このサイトを、実はパピヨン自身がFANの振りをして作っているのだと思ったようだ。

「残念ながら、そんな自演をする暇は無い……最も、本当のFANが作った物とは限らんが」

きっぱりと、誇らしげに言い切ったパピヨン
斗貴子さんは信じていないようだが
確かに、あちこち飛び回り好き勝手しているパピヨンには無理かも……
オレは、パソコンは良く解らないけど。
それに何より、自演なんてメンドクサイ事はしないだろうし
自分で作ったサイトなら、間違いなく自慢してきただろう。

「貴様、何しに来たんだ」
「暇が出来たから、武藤カズキに会いに来た」


―――そして、拉致


一瞬の間で、後ろから抱えられ


そのまま窓から飛立たれ


パピヨンの背中越しから、斗貴子さんの叫び声が聞こえた。











「あのさぁ、態とだろ」
「何の事やら」

シラッと答えるパピヨンに溜息を吐く。
俺の携帯番号も知ってるし
今までだって呼び出されたり、部屋に来たりしてるのに

「あんまり、斗貴子さんを怒らせるなよ」
「あの女が怒ったところで、何が出来る」

心底、嬉しそうに云うパピヨン。

「お前、何やかんや言って結構、斗貴子さん気に入ってるだろう」
「落とされたいのか」



やっぱり、図星だ。



ひねくれたパピヨンは、気に入った人間程かまう。
桜花先輩とは、御前様を通して仲良いし
斗貴子さんには、態と神経逆撫でして言い合いをしている。

斗貴子さんは真面目だから、かなり真剣にパピヨンとやりあってるけど
二人とも、楽しそうで何よりだ。


「さて、取敢えずいつもの店に行くか」


気がつけば、いつものロッテリや

「いらっしゃいませ~!!只今、蝶人キャンペーン第三弾中です!!」

そしていつもの店員のお姉さん


お連れ様がお待ちですよと笑顔で云われ
奥の席を見れば、御前様が先に居て
「カズキン、パッピー!!こっちこっち」
と、手を振っている。

何が凄いって、御前様が普通に一人で注文をして、食べている事だろう。

この状況に慣れきってしまった店員のお姉さんは―――偶に、遠い目をしているが
目の前に存在するものは、素直に信じる事にしているようだ。







「おや、偶然ですね」


席についてセットのハンバーガーを頬張り始めたところに、
同じくセットを手にした大戦士長――照星さん―――と、キャプテンブラボーが立っていた。


「何が偶然だか」


パピヨンがぼそりと呟くが、全くそれを無視して「折角だから、相席させて頂いても良いかな?」と
返事を聞く前に、二人ともちゃっかり席に着く。


「お二人とも揃って、今日は何かあったのですか?」
「出先で偶然、防人と会いましてね。折角ですから、お茶でもと思いまして」
「丁度、超人キャンペーンも始まったからな。この店にしたんだ」

にこやかな笑顔で返す、大戦士長とキャプテンブラボー
だけど、パピヨンはそれを鼻で嗤う。

「まあ、そう云う事にしておいてやろう」

照星さんは、変らず笑顔だ―――ちょっと、怖い笑顔だけれど。

「こちらも、聞きたい事があったしな」



パピヨンが、口元のソースと吐血を拭きながらにやりと嗤う。



「貴様らが俺のファンとは知らなかったな」


「おや、それはどう云う?」


「惚けるな
 貴様らが作った、俺のファンサイトは中々の出来だ
 大方、桜花辺りに作らせたんだろう」



お互いに顔には笑みを浮かべている。



「あぁ、お気付きだったんですか」
「面白いから茶番に乗ってやったが、折角会えたんだ
 労いの言葉でも掛けてやろうかと思ってな」
「それはそれは、光栄ですね」
「FANは大事にしないとな」
二人の和気藹々とした会話に、オレは衝撃を受ける。



「照星さんと桜花先輩が、パピヨンのFAN!!」



「それ違う、カズキン」
御前様がシェイクを呑みながら、片手で突っ込んで来る。
「え、だって、サイトを作ったのはパピヨンFANで『ファンサイト』だろ?
 物凄く凝ってるし、盛り上がってるし
 そのサイトを作ったのが、照星さんと桜花先輩なら―――

 二人とも、凄いFANじゃないか!!」



「だから、FANじゃないのに作ったんだろ
 何らかの目的があって」


そんな―――


「そんな、それじゃFAN詐称!!!パピヨンも、FANの人達も騙したんですか!!」


「そうきたか」
「だから、カズキン論点ずれてるって」
「取敢えず、黙ってろ武藤カズキ」

パピヨンが、シェイクを置く。

「俺の動向やら、情報やらを収集するのに手っ取り早いだろうが
 俺のFANは、世界中に居るからな。
 その上で、俺に憬れる輩の中に危険因子が居ないか―――その辺りだろう」

武藤カズキの付近に現れている時は良い。

だが、それ以外の場所で何をしているのか?
衛星の監視カメラもあるが、限度がある。
その点、意外と情報として有益なのがやはり人―――しかも、FANであれば尚更だ。

「まぁ、この位であれば俺様にとっては取るに足らない事だ」
 

―――好きにすれば良い


てっきり、ここで乱闘が起ったり
肖像権の侵害だとか喧嘩になったりとか、思ったのに
「パピヨン、お前……大人になったな~」
「フン、まぁ、多少感に触ったがな―――まぁ、精々頑張って俺を追いかける事だ」



「カズキ!!」


聞き慣れた声に顔を向ければ、真っ赤な顔をして走ってきた斗貴子さんが店の中に乗り込ん来た。

「あ、斗貴子さん」
「『あ、斗貴子さん』じゃないだろ!君は!!心配して探しても見つからないし携帯は繫がらないしっ!!!」
「女、パソコンの履歴は消してきたか?」
「はぁ?!」
「『はぁ?』じゃない。
 あのサイトは、学校等の公共機関からのアクセスは禁止しているのだぞ
 もし、アクセスしてしまった場合は、速やかに履歴の消去をするべきだ」
「そうなのか!斗貴子さん、履歴の消し方って」
「知るか!!大体、勝手にカズキを連れ去って貴様は何をしているんだ!!」
「それは、いけませんね―――戦士斗貴子」
「大戦士長?!何故ここに!!」


「戦士斗貴子―――ネットにも、マナーと云う物があります。
 まして、学校のパソコンは色々な生徒が触れるのですから
 履歴の消去は、絶対にしておかなければいけません」


厳かに言い切られると、斗貴子さんも返す言葉が無い様で


「戦士斗貴子、履歴の消去方法ならば、俺でも解る」
「あ、じゃぁ、俺も一緒に見たんだから一緒に消しに行く!!」
「良い心がけだ、戦士カズキ―――それでは、行くぞ!」
「おうっ!ブラボー!!」
「俺はパソコンの履歴消去の達人だ!!」
「俺はパソコンの履歴消去を教えてもらう達人だ!!」
「……もう、良いですから。取敢えず消しに行きましょう」
「あ、パピヨン」
「かまわん、ネットのマナーは大切だからな
 また、その内連絡する」
「じゃぁ、また」

手を振れば、軽く手を挙げて返される。
気が付けば、残るのはアノ二人になるけど
多分、大丈夫だと思いたい―――ちょっと、後ろ髪を引かれつつも、オレはお店を後にした。








「さて、わざわざ出向いてくれたんだ―――本題に入ろうか」
「楽しいですか、今の生活は」
「蝶☆サイコーだね」
「それは良かった。
 こちらに、武藤カズキが居るとしても―――貴方を手放しで自由にするのも、どうかと思っています。
 貴方の知能も技術も失くすには惜しく、自由にするには、恐ろしすぎますからね。
 そう云った点では、確かに私も貴方のFANかも知れません」
「フン―――ところで、掲示板のFANからの投稿写真だが
 横浜での、ブチ撒け女の写真が無いのは不自然だな」
「そちらも、気が付いてましたか」



ファンの投稿写真は多種多様で
パピヨンの写真以外にも、いつもパピヨンの近くに居る御前様は勿論
他にも数は少ない物の、偽善くんと思われる写メやブチ撒け女と思われる写メの投稿もある。
ロッテリやでは、キャプテンブラボーや戦士毒島も撮られていて
ちょっとした、集合写真状態だ。



ただ、パピヨンと御前様以外は都市伝説かコスプレイヤー扱いだが。
因みに御前様は、マスコット・ラジコン・妖精さん等の諸説がある。



「流石に、あれは不味いですからねぇ」



奥多摩の山奥で拾った、あの女。
人形サイズに縮み、貧相さが更に際立った身体に包帯を巻いていた。

その後、武藤 カズキと合流するまでの、約一週間のあいだ保護していたが
その間、奥多摩から横浜迄の間も
横浜で食べ歩きをしていた間も
あの移動の最中は、御前様の上に常時あの女が居た。
あの時は御前様も、かなり写真に撮られていたにも関らず
パピヨン一人が写った物しか、掲示板に載らなかった。


「今時の携帯もデジカメも、機能が良すぎて困ったものです」
「ふぅん―――投稿されても、掲示板の不具合で消えてしまう訳だ」
「流石に個人のデーターは、どうこう出来るものではありませんが」

情報の規制や操作は、お手の物だろうな。


にっこりと笑顔と余裕を見せる、すかした顔の前に
バサリと何枚かの写真を置く。

「これは―――!!」

その顔に浮かべられた驚愕の表情に、気が晴れる。

「確かに、今時の携帯もデジカメも機能が良い」

その写真に写るのは、御前様の上に座るあの女



―――問題は、投稿された物以外という事だ。




「どこから、この写真を?」
「こんな物、いくらでも手に入る」




錬金戦団の、段階的活動の凍結をしたところで
組織が、凍結している訳ではない。

今や核鉄と同じくらい
若しくは、それ以上の意味と価値を持つようになった『パピヨン』

動向を見張られるのは、有名税のような物だ。

武藤カズキを、本人が気が付かないように監視役として使うのも
こちらとしては、都合が良いので構わない。


―――だが


「まぁ、精々これからも情報集めて俺を追いかけろ―――俺は一向に構わんからな」


フンと鼻で嗤い席を立つ。



「やはり、貴方は目を離せませんね」
「嬉しかろう?―――俺のFANなんだから」


ゴチソウサマ、とトレーを片手で店員に言えば
暇なのか『あ、片付けますよ』とレジから出てくる。
御前様が、よろよろと運んでいたトレーも店員は笑顔で受け取りながら

「キャンペーン中にお暇な日があれば、ぜひ、また一日店蝶をお願いしたいのですが」
「う~ん、考えても良いかな」
「はい!ありがとうございます」

元気よく『またのお越しをお待ちしております』と見送られ、店を後にする。






「なぁ、パッピー」
「なんだ」
「良かったのか?アノ写真見せて」
「構わん。アレで揶揄う相手が、変っただけだ」

そう
今日、武藤 カズキを連れ去ったのは
あの写真を見せて、反応を楽しむためだったのだ。
アイツは、手乗りサイズになったあの女を殆ど見ていない。
某人形のチャイナドレスを着た、掌サイズのブチ撒ケ女。
あの女、最初はチャイナドレスを着るのを嫌がったから

チャイナドレス
スチュワーデス
ピンクのナース服
ウェディングドレス
ビキニの水着
メイド服

と、多種多様に用意してやったというのに
結局―――本人曰く、その中で、まだ、マシなチャイナドレスを着る事になった。

あの、貧相な身体に包帯を巻いていた状態からなら
どれにしたって、文句は無いと思うが。



あの姿の写真があるなんて、あの女は夢にも思っていないだろう。



どうせ、あの女もカズキを追って来るのだろうから
一緒に揶揄って、楽しむつもりだったのに。


戦団がその内に接触してくるだろうとは思っていたが、タイミングが悪かった。


「大体、態々ファンサイト等と銘打たず
 『パピヨン☆考察サイト』辺りにしておけば良い物を―――

 まぁ、精々これからも、俺のストーカーをすれば良い」



揶揄って、遊ぶ玩具が増えただけだ。




ふわりと羽が現れ、パピヨンが空を飛ぶ
『あ、あれって』
『パピヨンだ!!』
口々に人々が声を上げ、シャッター音がする。
くるりと一回転のファンサービスをしたパピヨンが、華麗に飛び去る。
人々の歓声とシャッター音は、いつまでも無くならなかった。










御前様は、遅れないようにパピヨンの後を追いながら思う。

(パッピーは、『ファン詐称』について怒ってるよなぁ)

そこは、カズキンと一緒なのが笑えるのだが

(それにしても……)


突っ込めないが―――突っ込めないが、突っ込みたい。



カズキンを散々ストーカーしているパッピーに、ストーカー呼ばわりされる錬金戦団



ちょっと、かなり切ない。
ストーカー否定できないだけに、切なさ倍増だ。
しかも、戦団が作ったサイトがFANサイトで
そのサイトの名前が『秘密の花園』と云うのも
よくよく考えれば―――凄く、サムイ

「蝶☆サムイ……な~んて……」

口に出したら
あまりのくだらなさに


―――何だか、更に哀しくなった。




その切なさと哀しさが桜花に伝わり
後日、桜花に何があったのか訊かれて話した御前様は
無言のまま、何とも云えない表情を浮かべた桜花を見る事になるのである。





『そりゃあ、L・X・Eでも、錬金戦団でもパソコンに侵入・ハッキングはお手の物
 信奉者として生きてきたのに、戦団に保護された後は戦団に上手く入り込み
 例え、今は落ち着いていたとしても 
 今後、何が起るか解らないなら、戦団に居た方が情報が収集できると 
 様々な手段を用いて戦団に喰い込み、
 それでいて影で未だに御前様を利用し
 戦団・蝶人両方共の情報を探り
 あるか解らない、何か起った時の為に
 事あれば、手助けできるように立ち回っている女だぞ。
 全て、武藤 カズキの為だけにだ―――自分を解っていたら、否定はできんだろうな』




自分の事は棚に上げて、さらりと言い放ったパピヨンに
御前様は、カズキの今後の人生は
どう考えても、平坦には行かないであろう事を思い

そっと、涙を拭いた。












『秘密の花園』


咲く花に、様々な虫が群がるのは―――自然の理
 




                                 







                                                     END