知り合えたのは、偶然
先輩と、後輩
年が離れているのに知り合えたのは、ラッキー
けれど、離れているから知らなかった過去があるのが
とても悔しくて――――――偶に、切ない。
耳と指先と、唇
あまり、連絡をくれない人だから
メールが入ったり、携帯が鳴った時に
必ず、でたくて。
寝てる間も、携帯を手放せなくなった。
三蔵に出会ってから、自分に増えた幾つかの癖――――
『携帯、必ず手に持ってるね』
クラスメートに指摘されて、気がつく。
――――以前は、携帯を家に忘れても気にもしなかったのに
メールするのも
携帯に掛けるのも
ほとんどが、私からで
『おはよう』とか『おやすみなさい』とか
そんな内容のメールを送られても、返さない
煙草を挟んだ指先がとても綺麗だと
そんな事をぼんやり思いながら、言われた言葉の意味を考える。
どうして?と訊けば気だるげに返される
『意味が無いから』と言う言葉。
でも、ね。
三蔵には意味が無くても、私にはあるの。
だから、送っても良い?と訊けば
返事が無くても構わないなら、お好きに
やっぱり、気だるげに返される言葉。
おはようもおやすみも、一方通行でも
それでも、届けたかった。
毎日々々送っていれば――――貴女はやっぱり優しい人だから。
偶に――――本当に、たまぁにだけれど
返されるのは、素っ気無いメールだけど
それでも、嬉しくて。
こっちも段々、頭を使って
『おはよ 学校おわったら松屋のあんみつ食べにいかない?』
『明日のお休み、時間あったら買い物付き合って
お昼までに返事下さい おやすみなさい』
メールを返してもらえそうな内容にして
例え、寝てても手の中の振動に飛び起きて。
返信もらえたら、直接携帯に連絡すれば
まだ起きてたの?
と、呆れた声。
丁度、起きたの。
だから、明日の時間と待ち合わせ場所決めちゃおうかと思って。
ほら、そうしたらアラーム合わせておいて
遅刻しないようにできるでしょ
理由をつければ溜め息を吐きながら
何を買いたいの
夏物のキャミかワンピ
三蔵、趣味良いから選んでよ
ふぅん、じゃあ10時に駅前で
10時ね、了解
用件だけで、終る会話。
それは、寂しいけど。
おやすみなさい
――――おやすみ
返される『おやすみ』が嬉しくて。
アラームをいつも起きる時間より早くして、枕を抱きしめて眠る。
それは、一言だけど
恐ろしく幸せな眠りへの呪文。
一緒にお買い物に行って選んでもらったワンピースは
一番のお気に入りになったし
一緒に食べたランチは
いつもより美味しかったし
一緒に歩いている最中にナンパしてきた男を
冷たい目線で追い返してくれたし
連れて行ってくれてたケーキ屋さんは
バイキングでしかも美味しいし
「相変わらずの、食べっぷり」
「三蔵、それだけ?」
「入るようなら、また取りに行く」
「三蔵のそれ、私が取りに行った時無かった……美味し??」
溜め息一つ
綺麗に切り分けられてフォークの先に刺さるケーキが
自然に口元に運ばれて
「はい」
揺らされる、フォーク。
三蔵の顔から目が離せないまま
自然に口が開けば、押し入れられるケーキ。
甘くて、少し酸っぱい
「ブルーベリーのチーズケーキ」
舌先ブルーベリーを転がして
噛みしだけば、溢れる果汁
喉を通る音が生々しくて
自分の口に運ばれたフォークが
三蔵の口に運ばれて
間接、キス
そんな言葉が、頭に浮かんだ。
好きと言う気持ちが、ただの『好き』じゃなくて
『恋』
と名のつくものだと、気がついた日曜の午後。
―――――それは、あまいだけじゃないけれど